特別コラム #1
古代に悪魔の軍団が最初にアゼロス大陸へ侵攻してきた際に、ナイトエルフ種族は勢力が二分しました。
強大な力を求める上級エルフのハイボーンたちは、強大なフェル魔法を操る悪魔に魅せられた結果として、悪魔側に加担してサテュロス(Satyr)と呼ばれるエルフ型の悪魔に変貌したのです。
アゼロス側が勝利して悪魔の軍団が撤退すると、残されたサテュロスは、かつての同胞であったナイトエルフの討伐対象となりました。
サテュロス戦争(War of the Satyr)の幕開けです。
悪魔の能力を取り込んで魔力がより増したサテュロスに対抗するべく、ギルニーアス地方を拠点としていたナイトエルフのドルイド軍は、特性の武器を仕立て上げました。
月の女神エルーンの杖に、獣の半神ゴールドリン(Goldrinn)の大牙を備え付けた、エルーンの大鎌(Scythe of Elune)です。
このドルイドの一軍は、もともと半神ゴールドリンの精霊力を借りて、獣化して戦う集団でした。
2体の神の力を掛け合わせた武器の相乗効果によって、自分たちの獣化能力をより強化しようとしたのです。
しかしながら、予想外の事態がサテュロスとの戦闘中に起こりました。
大牙に宿っていたゴールドリンの意思が、他の神と同居することを拒絶したために、その大牙が備え付けられたエルーンの大鎌が暴走を始めたのです。
暴走した大鎌が屈折したかたちで獣化能力をもたらしたために、ドルイドたちは変身後に自制心を保つことができなくなり、姿と同様に精神までも猛獣化してしまいました。
この自らをコントロールする術(すべ)を失った獣化ドルイドたちは、ウォーゲン(Worgen)と呼ばれるようになりました。
ウォーゲンと化したドルイドたちは、これまで以上に高い身体能力を得て、サテュロスの勢力に大きな損害を与えましたが、それを終えると今度は味方のナイトエルフたちも襲い始めました。
無差別に攻撃してくるウォーゲンのもう一つの厄介な特性は、感染力がある呪いを有していることです。
ウォーゲンに噛まれるなどして傷つけられた対象は、その傷口から呪いが入り込み、やがてはその効能によってウォーゲンに変貌してしまうのです。
襲撃されたナイトエルフたちは次々にウォーゲンと化してしまい、ウォーゲン増殖の連鎖が止まらない状況になってしまいました。
事態を重く見たドルイドのリーダーのマルフュリオン・ストームレイジは、ウォーゲンの呪いにかかって人格を失った者たちを、やむなくエメラルド・ドリーム――イセラが司る夢の世界――へ一斉に強制移送させて、そこで半永久的に眠らせることで幽閉しました。
こうして、この世で初めて誕生したウォーゲン種族は、これから1万年以上に渡ってアゼロスから隔離されることになりました。
その長い年月の間に忘れ去られる存在になったウォーゲンは、奇しくも、誕生のきっかけとなった悪魔の襲来が再び起こった際に、誕生の地ギルニーアスにおいて解き放たれることになるのです――
エルーンの大鎌を造り上げ、そして結果的に最初のウォーゲンとなってしまったドルイドたちは、ギルニーアス王国の南部にある森林地帯のブラックワルド(Blackwald)を居住地としていました。
「黒」を意味する「Black」に、ドイツ語で森を意味する「Wald = ヴァルト」を掛け合わせたブラックワルドは、「黒い森」という景観を連想させる名称です。
ハースストーンの「妖の森ウィッチウッド」の舞台である、魔女が潜むという「ウィッチウッド」の由来となっている森が、このギルニーアス南部のブラックワルド森林地帯です。
どちらも薄暗いうっそうとした「黒い森」であることは共通していますが、Warcraftの世界のブラックワルド側には魔女が存在しません。
ハースストーンの世界のウィッチウッドには、そのブラックワルドに「魔女ハガサ」が住み着いたことによって汚染された森という、「if」の設定が用意されています。