(Jungle Troll / Gurubashi Empire)
アゼロスの南部を新天地としたトロルの難民たちは「ジャングル・トロル」と分類されて、そこに広がるジャングル一帯にグルバシ帝国を築きました。
グルバシは首都のズルグルブ(Zul’Gurub)を拠点にして、北方で勢力を伸ばしたアマニと共に、二大帝国と称されるまでに繁栄しました。
しかしながら、悪魔の襲来の際に発生した久遠の聖泉(Well of Eternity)の暴走によって、グルバシもまた領土の大半を失い、発展力を著しく減退させたのでした。
誰もが不安と狂気に陥る混沌とした情勢になると、グルバシの高僧たちは救いを求めるべく、血の神ハッカーを新たなロアとして崇拝することを決めました。
ハッカーは、かつてザンダラリ帝国一強時代にも一部で崇拝されていたものの、何千というトロルがその犠牲になったために禁制された邪神です。
強大な存在にすがりつきたい一心であったグルバシ帝国は、呼び起こすべきではないハッカーという存在に触れてしまい、かくして暗黒時代へ突入することになります――
ハッカーの凶悪さの由来は、生物の間で血液を介して急速に感染する伝染病の拡散にあります。
その汚れた血(Corrupted Blood)の秘術を授かったことによって、敵対勢力の排除が容易となったグルバシは、ストラングルソーンのジャングル一帯における影響力を急速に高めました。
この成功によって、グルバシのプリーストたちはハッカーの狂信者に成り果てることになります。
血に飢えている血の神ハッカーは狂信者たちに対して、いけにえとなる生物を儀式で殺害させて、その魂を捧げることを日々要求し続けました。
この忌まわしい儀式が慣習化されると、ハッカーの要求はますますエスカレートし、ついにはハッカー自身をアゼロスに召喚するよう信者たちに命令したのです。
アゼロスの世界で自らが物理的に存在することによって、アゼロスのありとあらゆる生物の血を直接すするという、恐ろしい欲望を満たそうとしたのです。
さすがの信者たちもハッカーの降臨には恐れをなしたのですが、病的なまでに熱中してハッカーを支援する過激派の信者の集団は、その召喚の儀式を強行しようとしました。
日頃から儀式の残虐行為を非難してきたグルバシの一般のトロルや、ハッカーを召喚することには否定的であるハッカーの信者、さらには禁止したはずのハッカーとの接触を知ったザンダラリ帝国までもが、ハッカーの召喚という蛮行を食い止めるべくストラングルソーンに集結しました。
そして、彼らと過激派信者たちとの間で、大規模なトロルの内戦(The Gurubashi Civil War)が起こったのです。
全滅寸前まで敗れて撤退を余儀なくされた過激派信者たちは、北部の地域の沼地で密かに神殿(Temple of Atal’Hakkar)を設けて再起を目指したのですが、この事案に気付いたイセラが率いるグリーン・ドラゴンの軍団によって神殿は破壊されています。
かくしてグルバシは帝国の中枢(ちゅうすう)が機能しなくなり、その結果としてストラングルソーンに住むトロルたちの結束は部族ごとに分裂してしまい、それぞれがこの地域の支配をリードしようとしてお互い争い合いました。
グルバシ帝国の崩壊です。
この騒乱の中で、規模が小さくて他部族とまともに争えないダークスピア(Darkspear)部族は、ストラングルソーンから避難することしか生存する道がなかったため、大海を渡って孤島に移り住みました。
その後に本土で第三次大戦がぼっ発すると、航海中に嵐に見舞われて遭難したスロールとオーク軍が、ダークスピアが移住した孤島まで流されました。
ここでスロールはダークスピア部族と平和的に接触し、彼らの支援も受けながら付近にあったアライアンス陣営の前哨基地を攻め落としています。
しかしながら、この孤島で過ごしている最中に、ナーガの魔女が率いるマーロックの群れにダークスピアのトロルともども捕獲されてしまいます――
スロールはどうにか脱出してオークとトロルたちを救出したのですが、ダークスピアのリーダーであるセンジン(Sen’jin)はすでに致命傷を負っていました。
ホード陣営の総大将であるスロールが到来することを預言していたセンジンは、死ぬ間際に「難民となる運命を背負った我が部族を、そなたが新しい運命に導くと預言が啓示している――」とスロールに伝え、ダークスピア部族の行く末を彼に託したのでした。
恩を受けた部族の首長の遺言(ゆいごん)をスロールが捨て置く訳もなく、ダークスピアのトロルはホード陣営に迎え入れられて新しい戦力として活躍するようになり、やがてはセンジンの息子であるヴォルジンがホード陣営史上初のオーク種族以外の総大将となるまでに至っています。
なお、World of Warcraftにおいてプレイヤー・キャラクターとして選択できるホード陣営のトロル種族は、ダークスピア部族のトロルであるという設定になっています。
――無秩序なまま統制がとられていないストラングルソーンにおいては、混乱に乗じてハッカー信者の過激派集団の生き残りが首都ズルグラブを制圧し、そこでハッカーのアゼロス降臨を成し遂げてしまいました。
この事案を受けてプレイヤーの冒険者たちは、大型ダンジョンのズルグラブに乗り込み、ハッカーおよびその信者たちを討伐することを依頼されます。
ハッカーが討伐された後には、共に誅殺されていたハッカー召喚者のジンドー(Jin’do)が亡霊としてズルグラブで蘇り、束縛したハッカーの力を抽出することで邪教のトロル帝国を築こうとしましたが、これを脅威と見なしたダークスピア部族が依頼した冒険者たちによって再び滅ぼされました。