Warcraftのゲームの世界において、初めてトロル種族のヒーローとして出現したキャラクターがズルジンです。
今でこそトロルを代表する存在と言えばヴォルジンが挙げられますが、彼が活躍を見せる以前の「Warcraft 2」の時代から操作可能なユニットとしてズルジンは登場を果たしており、Warcraftのファンの思い出に長く残されているヒーローの一人となっています。
ズルジンは、かつてはアゼロスの東北部の全土を支配していたフォレスト・トロルのアマニ帝国のリーダーでした。
トロルはアゼロス史上最古の種族であり、その長いトロルの歴史の中でも、ズルジンは最も偉大な戦士ではないかと目されています。
少なくともトロル史が残る数千年以内の近代においては、ズルジンが最も偉大なトロルの戦士であることは確定的であり、他の部族のトロルたちからも畏れ敬われる(おそれうやまわれる)カリスマ的な存在でした。
身体能力、戦闘技術、狡猾(こうかつ)さ、用兵力のいずれもが他のどのトロルよりも高いズルジンは、各部族のトロルの首長に挑戦しては全てに勝利して配下に取り込み、アマニ帝国をより強固に、より広大に発展させました。
ズルジンとアマニの歴史は、ハイエルフたちとの抗争の歴史でもありました。
元をたどればズルジンたちと同じフォレスト・トロルであったハイエルフたちは、アーケインの魔力にとりつかれてトロルからナイトエルフ族に進化し、魔力の発展を望んだ一部がハイエルフの勢力として独立しました。
そのハイエルフたちが新たな拠点の地として選んだ場所が、フォレスト・トロルのアマニ帝国が栄えるローデロン地方だったのです。
ハイエルフを領域の侵犯者と見なしたフォレスト・トロルは、彼らを即座に襲い始めました。
アマニのリーダーとなるまでのズルジンに関する記録はあまり残されていませんが、このハイエルフとの抗争時には、彼はすでにアマニ帝国の統率者となっていました。
電光石火の速攻や神出鬼没の奇襲を繰り返すズルジンは、彼の冷酷な性格と共に、常にエルフたちの恐怖の象徴であり続けました。
ハイエルフの首都を守る魔法防壁の秘密を暴くべく、後のブラッド・エルフのリーダーとなるローゼマー・セロン(Lor’themar Theron)やレディ・リアドリン(Lady Liadrin)らを捕獲したズルジンは、何も答えようとしない彼らに激しい拷問を与えました。
結局はローゼマーたち捕虜の救出を果たしたハイエルフ軍は、原始的な低能種族と卑下(ひげ)していたトロルたちの実力を完全に見誤っていたことを痛感し、ローゼマーらが受けた拷問の仕打ちを忘れることなく、反撃の機会を伺うようになります。
オークがアゼロスに侵入してきた第一次大戦の勃発時には、すでにズルジンの勇猛さはアゼロス全土に知れ渡っていたようで、ホード陣営の初代総大将のブラックハンド――レンドの父――は、その頃からフォレスト・トロルをホードに引き入れようとしてズルジンへの接触を試みています。
しかしながら、太古の時代から無頼(ぶらい)の独立勢力としてアマニは発展してきたという自負(じふ)を誇るズルジンは、アゼロスの「新参者」であるホード陣営の侵略戦争に加わるメリットも見いだせなかったことから、同盟の必要性を感じずに申し出を突き返し続けていました。
時が過ぎてホードの総大将がオーグリム・ドゥームハンマー――スロールの父デュロタンの親友――に成り代わると、アマニ帝国の領域のローデロンまで遠征してきたドゥームハンマーは、その地方で人間種族にズルジンが捕獲されているという知らせを受けると、ただちにオーク軍を派遣してズルジンとその部隊を救出しました。
この件をきっかけにしてアマニとホードは急接近――ズルジンは依然としてホード陣営の実力を信用していなかったものの、ハイエルフという厄介な敵対勢力に手を焼き始めていた事情も鑑みて(かんがみて)、お互いの抗争に協力し合うことを約束してホードと同盟関係を結びました。
――ズルジンの嫌な予感は的中してしまいました。
アライアンス陣営と第二次大戦で争っていたホード陣営は、トロル戦争に兵力を割く(さく)余裕がなくなり、ハイエルフの魔法防壁を解除できるとアピールするグルダンに現場を任せて撤退しました。
実際にはグルダンは、ホード陣営を裏切るための単独行動を起こす目的で申し出ただけに過ぎず、もとよりトロル戦争に興味がなかったグルダンの軍勢は、アマニのトロルと共同でハイエルフの首都を包囲している最中に突然姿を消してしまったのです。
取り残されて散在したアマニ軍は、機を見て反撃に転じたハイエルフ軍に対して善戦するもかなわず、総大将のズルジンはとうとう憎み合う敵のハイエルフ軍の捕虜となってしまいました――
奇襲を成功させたハイエルフ軍のレンジャー部隊の総指揮官であるハルデュロン・ブライトウィング(Halduron Brightwing)は、野営のキャンプを設けて、魔法の鎖によって自由を奪われているズルジンを見下ろしていました。
親友であるローゼマーがズルジンからひどい拷問を受けたことを忘れていないハルデュロンは、ズルジンのために家族や友を失った部下のレンジャー隊員たちの怒りも引き受けて、ズルジンに対するむごたらしい拷問の報復を始めました。
このときに右目を失うほどの凄惨(せいさん)な仕打ちを受けたズルジンの様子を見ていたリアドリンが、「もう一思いに殺すべきだ」と主張したことで拷問は中止されました。
ただ、ローゼマーの目の前にズルジンを連行して彼に最終的な処遇を下させたいハルデュロンは、とどめを刺すことなく鎖で縛られたズルジンを放置し、帰陣の支度に取り掛かりました。
ローデロン地方のトロルの社会においては、全てのトロル部族の英雄かつ象徴的存在であるズルジンが行方不明となった知らせがまたたく間に広がり、彼の消息に関する情報の提供や協力の申し出が絶え間なく相次ぎました。
さすがのフォレスト・トロルの精鋭たちは、持ち前の追跡術を発揮してハイエルフの野営キャンプを突き止めて、そこで瀕死の状態で捕獲されているズルジンの発見に成功しました。
しかしながら、彼の腕を縛っている魔法の鎖は、その場にいる誰もが断ち切ることができませんでした。
すぐにでもハルデュロンたちが駆けつけてくるであろう時間に迫られている状況の中で、ズルジンは捨て置かれていた槍を拾い上げて、迷うことなく自らの腕を断ち切り、鎖に縛られたままの片腕を残して脱出したのです――
「天下一ヴドゥ祭」のレジェンド
<目次>
※以下のレジェンドは、ハースストーンのオリジナルの創作であり、Warcraftの世界には登場しないキャラクターです。
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