Hearthstoneの開発陣の一人であるBen Brode氏が、Hearthstone公式のYoutubeチャンネルで出演しました。
「新コンテンツの裏側の一面」と題した動画において、ゲーム・デザインの考察について論じました。
※動画の内容の要約(クリックで開く)
- 2種類のプレイヤーからのフィードバックが大きな懸念材料となっている。
一つは新規参入者の「新たに参加しづらい」「カードがなくて勝てない」、もう一つは経験者の「カードの強さのインフレ化が心配」という意見。 - ゲームを新鮮かつエキサイティングなものに保つことが開発陣の責務であると考えている。
メタ・ゲームを一新するほどの強力なカードを産み出し続ける必要がある。 - ここで言う「強力なカード」とは、低いコストで既存のカードと同じ内容の能力を持つカードではない。
新たなコンテンツがリリースされるたびに、コストの減少やステータス値の増加が無制限に進行されることはない。 - Hearthstoneにおける「Power Creep」という単語は、ゲームの全体的な要素を強化することを意味している。
LoathebとSludge Belcherの登場は、Azure Drakeしかなかったコスト5のMinionの選択肢を増加させた。
Grim Patronの登場は、Warsong CommanderとBattle Rageの使用率を飛躍的に増加させた。 - 旧カードで全く使用されないものの上位互換版が出現することはOKであると考えている(Magma Rager → Ice Rager)。
- ゲームが長く存続することを重要視しており、半永久的に稼働されることを望んでいる。
そのために、上記の問題の解決方法を今も探っている。
※Ben Brode氏について(クリックで開く)
Hearthstoneの開発チーム「Team 5」のオリジナル・メンバーの1人であり、現在は同ゲームのシニア・ゲーム・デザイナーを務めている人物です。
これまで、Blizzard社のWarcraftシリーズにおいてテスターや品質管理を担当してきました。
Blizzard社の主要な開発メンバーの中では珍しく、たびたびメディアに登場してはプレイヤーと密にコミュニケーションをとることを好みます。
昨年には公式世界大会のゲストとしても登場し、大音量の高笑いが反響を呼んで参加選手と同等の脚光を浴びました。
多くのHearthstoneプレイヤーから愛され続けている存在です。
その特徴的なキャラクター性はWorld of Warcraftにも飛び火して、彼をパロディ化したBenjamin BrodeというNPCが作られました。
今回の投稿において焦点をあてるのは、Brode氏が挙げた二つの問題点の一つである、新規参入者のモチベーションを奪う可能性がある要素についてです。
簡単に理解できて中毒性があることを大きな売りとしているはずのHearthstoneが、現在は新規参入者を継続的にプレイさせることについて苦悩し始めています。
同氏がわざわざ動画に出演して説明し、コミュニティからの意見を必要とする姿勢を見せたことで、この問題に対する議論が活発に行われています。
最も多い意見は「カードがなかなか揃わないから勝てない」です。
いくら勉強をしても、手持ちがBasicセットのFreeカードだけでは、RareカードやLegendaryカードを満載しているデッキに勝つことは非常に困難です。
現状では、多額のお金を支払わない限りはカード資産を急激に増やせないので、「人並みに」戦える態勢が整うまでには長い時間を要します。
新規プレイヤーが早期に離脱してしまう大きな原因の一つは、カード資産が乏しいプレイヤー同士で長く戦えないことです。
すぐに到達できるランク20からは突然に、十分なカード資産の所有が前提である戦いを強いられます。
資産差を感じる敗戦が続くと、資産が増える前にプレイを継続する気力が失われてしまいます。
増え続けるカードの内容を一から全て覚えるのは大変であるという意見も少なくありません。
さらに日本国内においては、日本語版が存在しないために、言語の問題がカード内容の習熟の困難さに大きな拍車をかけています。
コミュニティが提言した問題の拡大防止策の中で、最も多かったのが「スタンダード・フォーマット」の採用です。
マジック:ザ・ギャザリング――Hearthstoneが目指すべき世界最高のカードゲーム――で採用されている、デッキの構築ルールの一つです。
マジックの「スタンダード・フォーマット」においては、基本セットと2年以内に発売された拡張セットのカードだけが使用可能となります。
新たなシリーズの拡張セットがリリースされるたびに、フォーマット内で最も古いシリーズのセットが使用不可となる「切り替え」が発生します。
これをHearthstoneで同じように採用すると、来年にはPiloted ShredderやDr. Boomを含む「Goblins vs Gnomes」セットのカードが全て使用不可となります。
この構築ルールによって、新カードが無制限に増え続けても、新規参入者がカードの収集と習熟をする際の負担が軽減されます。
切り替えが発生するたびにメタ・ゲームが一新されるため、経験者に新鮮な環境を提供することも同時に実現します。
他にも、以下のような解決策の提言がありました。
- 古くなったセットのカード・パックやAdventureの販売価格を低くする。
→ 古くなるほど割引率が高くなる段階的な値下げや、作成費用のArcane Dust量の方を少なくするという提案も。 - ランキング戦のシステムを改革し、さらに複数の種類のランキング戦を導入する。
→ マッチメイキング・システムの向上、LegendaryやEpicのカードの枚数に制限を設けるランキング戦、入場にクラス・レベルの上限を課すランキング戦、など。 - リーグ戦の導入。
→ 昇格や降格がある階級制のリーグで、1か月は他の階級のプレイヤーと戦うことがないプレイ・モード。 - Magic Onlineのリーグ戦のような、Arenaが長期間続くプレイ・モードの新設。
→ 一度入場料を支払うと、有効期間中は何回負けてもゲーム・オーバーにならず、カード資産を必要とせずに楽しめる。デッキの微調整も可能。 - 物理版カードゲームに存在するような構築済みのスターター・デッキを複数用意する、あるいは販売する。
→ 各シーズンのテーマに沿ったデッキ内容(GoblinがテーマのシーズンにはイラストにGoblinが描かれているカードを満載するなど)にしても。 - 新規プレイヤーを対象とした報酬を増やし、多様化させる。
→ 負けても達成できるクエストを増やしたり、レベル上昇によって得られる報酬内容を向上したり。
他のゲームと同様に、Hearthstoneにおいても経験者が新規参入者より高い発言力を有しています。
経験者による「デッキ・スロット増設」の要望が続出した際に、陰で「スロットが埋まるだけのカードをまず欲しい」と発言したかった新規参入者の存在を認識していた経験者はどれほどいたでしょうか。
スロット増設に伴うインターフェースの複雑化を危惧しているBen Brode氏は、「現状でもAdventureモードの入場方法すらわからない新規参入者もいる」と指摘しています。
他のスポーツ競技と同様に、上級者や頂点に君臨するプロ選手が称賛され、崇拝されるのは当然のことです。
しかしながら、その競技の根幹を成すのは、0.01%の割合で存在するプロ選手ではなく、その他の大多数を占める一般プレイヤーです。
自分や身内だけが楽しめれば良しとする自称上級者を見かけることがありますが、ないがしろにしている多くの一般プレイヤーや初級者が去れば、自分の立ち位置もろとも競技が崩壊することを考慮してほしいと思います。
未経験者に対する普及と一般層の継続的な参加のサポートは、競技が発展および存続するための絶対条件です。
Hearthstoneの人気が恒久化することを願う当サイトは、発足時から変わらず「すべての人にHearthstoneを楽しく、気軽に、安全にプレイしていただく」ことを第一に考えています。
これからも、新規に参加される方や初級者である方を主な対象とし、Hearthstoneの内容をわかりやすく解説することを心がけます。
それが、ごくごくわずかな規模であっても、Hearthstoneの新規参入者が抱える障害を排除することになれば幸いです。
ここまでは、取り上げられる機会が少なかった新規参入者側の都合を重視して記述しましたが、もちろん経験者への配慮も同程度に重要です。
経験者が夢中になれないゲームは「やり込み甲斐がないゲーム」であり、魅力を感じさせません。
さらには、経験者の脱落数が新規参入数を上回っては元も子もありません。
苦労して、それこそお金を費やして集めたカード資産が、新規参入者に手厚いシステムの導入によって、一瞬で苦労が無意味となるほどに収集価値が暴落したら――当然、納得できないでしょう。
カードを収集するという行為に対する信用度が失われることは、Hearthstoneにとって致命的であるはずです。
「新規参入者へのサポート」と「経験者への配慮」の両立という難題に対し、開発陣は最終的にどのような解答を導き出すのでしょうか。
ここまで読んでいただいたということは、多少なりともHearthstoneの行く末を気にされている方なのだと思います。
Hearthstoneを「初級者と上級者が快適に共存できるゲーム」とすることについて、あなたはどうお考えですか。
Youtube – Design Insights with Ben Brode: The dark side of releasing new content
Hearthstone: Heroes of Warcraft Wiki – Ben Brode