トロルの呪術の医療によってもズルジンの目と腕は治りませんでしたが、彼の脱出劇はアマニ帝国のみならず全てのトロルの社会に伝わっていて、部族に関係なくズルジンという英雄の名声はより高まることになりました。
そして、当然のことながらアマニ帝国はホード陣営との関係を全面的に解消――再び独立勢力に戻り、ハイエルフとの抗争に臨む準備に入りました。
外部からはアマニ帝国の挙動がつかめなくなった一方で、ハイエルフたちは激震に見舞われることになりました。
リッチキング率いるアンデッドのスコージの大軍が、ケルスザードを蘇生させるために太陽の泉(Sunwell)を略奪しようとして押し寄せたことによって、ハイエルフの勢力および領土の大半が損失する事態となったのです。
国王も失ったハイエルフの生き残りはブラッド・エルフと名を改め、同じくスコージに復讐を誓うアンデッドのフォーセイクンと手を組むことを契機にホード陣営へ加入し、後継者のケルサス・サンストライダー(Kael’thas Sunstrider)のもとで国の再建を目指し始めます。
その頃、お宝を求めて各地の遺跡を回っていたトレジャー・ハンターの一団が、アマニの首都のズルアマン(Zul’Aman)へ、そうとは知らずに潜入しました。
その彼らがズルアマンの内部で目撃した内容が報告されたことによって、フォレスト・トロルの現況が伝わってきたのです。
ズルアマンにこもって戦闘態勢を整えていたズルジンは、腹心の呪術司マラクラスの協力のもとでミステリアスな闇の力を新たな武器にして軍を再編成していて、さらには4種の強大な獣のロアたちの力を抽出する補強も果たしていたというのです。
折しも、ハイエルフと共にアマニと敵対したローデロン地方の人間種族がスコージ軍によって壊滅していた上に、エルフと同盟を組んだホード陣営が悪魔の軍団と対抗するために別世界のアウトランド(Outland)へ軍を派遣していた時期のことです。
――再建中で援軍も期待できない状況下のエルフに対する、ズルジン率いるアマニ軍の進撃の機運が最高潮に達していました。
ここは…、我らがトロルの大地――我らアマニが何者よりも先に居たのだ!
エルフとアライアンスどもが我らを追い払おうとしたが――我らは絶対に諦めないし、絶対に忘れはしない。
エルフは我が目を潰し、我は脱出するために腕を切り落とさねばならなかった――
そのエルフが、今度はホード側についただと?!
ホードなんてクソ喰らえだ!――貴様らが憎い…、貴様ら全てが憎い。
だが、貴様らのためにサプライズを用意してやったぞ…――だから、かかって来るがよい。
アマニは決して諦めないし、我らは決して忘れはしない!
我らは決して滅びることはない――この大地は我らのものだ。
この地に居たいというならば、永遠に居残るがよい!――我らが貴様らをこの地に埋葬してやろう。
かくして、ホードとアライアンスの両陣営にとって並ならぬ脅威と認められたために、ズルジンおよびアマニ帝国は共通の討伐対象に定められました。
そして、奇襲要員として派遣された両陣営のプレイヤーたち冒険者は、10人制の中型ダンジョン「ズルアマン」へ挑むことになりました。
最初の4体のボスは、呪術司マラクラスが抽出したロア――熊のナロラック(Nalorakk)、鷲のアキルゾン(Akil’Zon)、ドラゴンホークのジャナライ(Jan’alai)、オオヤマネコのハラッジ(Halazzi)――の力をまとったトロルの勇士たちでした。
そして副ボスのマラクラスを経て挑む最終ボスのズルジンは、上記4種の各ロアのフォームに変身を繰り返す難敵で、それぞれのフォームにおけるギミックをメンバー全員が熟知しておく必要がありました。
ズルジンの討伐が果たされた後のアマニ帝国は傾き、衰退の道をたどって規模を大幅に縮小させました。
その死後も、ズルジンの勇名と矜持(きょうじ)はアゼロス全土のトロルたちの胸に刻まれ続け、今日もなお語り継がれています。
「World of Warcraft」の最新拡張セット「Battle of Azeroth」では、ザンダラリ帝国の港において、そこに居を構えるアマニの生き残りの一部が建てたズルジンの彫像が登場しています。
- ズルジンの「ズル」は「偉大な」、「ジン」は「部族のリーダー」をそれぞれ意味するトロル言語の称号です。
したがって、「ズルジン」という呼び名は「偉大な部族のリーダー」を言い表している称号となります。
- ハースストーンで登場したズルジンのヒーローパワーが狂戦士の斧投げ(Berserker Throw)である由来は、ズルジンが初登場した「Warcraft 2」におけるトロル兵が斧投げ(Troll Axethrower)という遠距離攻撃ユニットだったことです。トロルの斧投げのユニットのアップグレード版がトロルの狂戦士(Troll Berserker)であり、こちらもヒーローパワーの名前の由来となっています。
- ズルジンは「Heroes of the Storm」でもプレイ可能なヒーローとして登場しています。このズルジンは両目と両腕を有することから、「Warcraft 2」の頃のズルジンであると見なされています。
- 「World of Warcraft」でプレイヤーが操作するトロル・キャラクターは、アマニに所属していない南部のジャングル・トロルのダークスピア部族なのですが、感情表現(Emote)の一つが「For Zul’jin! = ズルジンのために!」となっています。
全トロルがズルジンを畏敬(いけい)している様子を表しているのでしょうが、その彼らがダンジョンのズルアマンで「For Zul’jin!」と叫びながらボスのズルジンと対峙するという、皮肉な現象も起こりました。
「天下一ヴドゥ祭」のレジェンド
<目次>
※以下のレジェンドは、ハースストーンのオリジナルの創作であり、Warcraftの世界には登場しないキャラクターです。
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