2013年10月から配信が継続されている、ハースストーンのポッドキャスト「The Angry Chicken」が、先日に第300回目の放送を迎えました。
それを記念するスペシャル・ゲストとして、開発陣のピーター・ウェイレン氏が招かれることになりました。
そして、その収録日は偶然にもバランス調整が発表された直後であったため、「The Angry Chicken」はバランス調整の話題を中心に据えて、様々な質問をウェイレン氏に投げかけました。
その配信中の応答内容の要約を以下に掲載します。
ピーター・ウェイレン
- 歴史的に見ても、様々なアーキタイプの原型となった強力なデッキで使われ続けてきたカードたち。
高性能であり、それでいて「基本」と「クラシック」に属するカードだ。 - 今回は、「基本」と「クラシック」のカードの将来的な理念について、少々説明するよい機会だと思う。
それらのカードが「スタンダード」で永続するという素晴らしい特徴を持つことを、私たちは気に入っている。
しかしながら、それらが「スタンダード」の環境を支配することで、あらゆるデッキが類似(るいじ)する現象は望んでいない。 - 攻撃的なシャーマンのデッキが、炎の舌のトーテムと多数のミニオンたち――マーロック、トーテム・ゴーレム、コスト1のヒーローパワーのトーテムなど――を併用してアドバンテージを得てきたことを、様々な時代のハースストーンのシーンにおいて私たちは目の当たりにしてきた。
だから炎の舌のトーテムを、シャーマン・クラスの根本的な原動力という立ち位置から少し離して、それでもなおシャーマンのデッキに採用され得る程度まで強度を落とすことにした。
そうすることによって、拡張セットのリリースごとに、その代わりとなる何かが代用される機会が生じ、マンネリ化の抑制が可能な下地ができあがることになる。
冷血の弱体化も、これと同様な理由である。
ピーター・ウェイレン
- 当然のことながら、どのような対処が最も適切であるのかについて、たくさんの議論が交わされてきた。
共に、とてもとても強力なカードであり、バラエティに富んだ様々なデッキで扱われている。 - 拡張セットのカードが有力視および多用されること自体は素晴らしい現象ではあるが、両方とも間違いなく現在のメタを定義付けている存在だ。
長期にわたって特定のクラス、またはメタ全体の最高のアーキタイプをもたらし続けていることは、もしかするとあまり健全ではないのかも知れない。 - だから、現在は適切な対処法があるかどうかについて調査している最中である。
今回のバランス調整には含まれなかったが、この数週間から数か月間にかけて、ゲンとバクの調整について私たちは考察していくつもりだ。 - ゲンとバクに対するバランス調整が他と異なる特殊性は、単純にそれらのマナコストやステータス値を変更するだけでは大した変化が起こらず、根本的な解決にはならないことだ。
とても一筋縄では行かない調整作業が必要となる領域である。 - まあ、マナコストを1だけ増やすと、とんでもない変化になるのだけれどね――(一同爆笑)
- 補足したいことは、コミュニティが提言している全ての調整案も、私たちは検討しているということ。
私たちは全てのフィードバックに目を通しているし、私たちはそれらから解決案を見つけ出すこともあるだろう。
平等について
ピーター・ウェイレン
- 平等の調整作業中に、私たちはこれが3マナであっても、依然としてパラディンの大変強力なコントロール用ツールになると思えた。
数年後までのある時点で、「平等が4マナであったらいいのに――」と願うことになる未来も予想された。 - コントロールを含めたパラディンのデッキ全てに組み入れられることがなくなる一方で、なおも熱狂する火霊術師や聖別との併用には意義がある。
4マナに変わっても、排除用のツールとしてわざわざ採用されるケースがあれば、それは妥当な変化ということになる。 - (※縮小光線と1マナしか差がなくなることについて――)
マナコストの面で急接近することは確かだけれど、縮小光線が平等よりも多分に優れているとは言い切れないのではないだろうか。
体力を1にすること、すなわち敵のミニオンを排除することこそが、多くの場面でプレイヤーが望む効果だと思う。
弱体化と「栄誉の殿堂」入りの違いについて
ピーター・ウェイレン
- この「スタンダード」の年度末の時期に、私たちがよく議論する事項は、「各クラスの最適な振る舞いとは何か」「各クラスの行動を適切にうながす要素は何か」。
一般的には、クラスの特徴をよく表現する「基本」と「クラシック」のカードの話題になる。 - 各クラスの基本的な戦術を代弁するような「基本」または「クラシック」のカードは、修正が必要になると、「栄誉の殿堂」入りではなく弱体化が施される。
野生の繁茂は、その典型的な例だった。 - 私たちが識別してきたクラスの特徴に合わない行動を推進させたり、「スタンダード」の環境に存続すると不健全かつ開発の障害になると見なされたカードは、弱体化ではなく殿堂入りとなる。
ローグの隠蔽などがその例。 - 能力のメカニクスが大変面白いカードや、世界観の象徴となるカードが、やはり強すぎたりデザインの障害となる場合は、その状態のまま「ワイルド」で存続してほしいがために殿堂入りが選択される。
コールドライトの託宣師や炎の王ラグナロスがその例。
「栄誉の殿堂」入りの時期について
ピーター・ウェイレン
- カードの変更に関する最重要の信条の一つは、「なるべく人々のデッキを壊さない」こと。
カジュアル・プレイヤーの訴えによると、彼らがハースストーンに戻ってプレイを再開しようとしたときに、使えなくなったカードが含まれている作成済みのデッキに「大きな赤いバツ・マーク」が付けられてプレイできなくなると、大変なストレスを感じるのだという。
だから、カードの使用そのものを不可能とする「栄誉の殿堂」入りは、大勢のカードが使用不可能となることが周知されている「スタンダード」の切り替えと同時に行うことにしている。 - ただ、「スタンダード」切り替え以外のタイミングでも、「栄誉の殿堂」へ移すことがどうしても必要な事態が生じたら、私たちはそれをするだろう。
死線の追跡者レクサーについて
ピーター・ウェイレン
- 今の時点でデスナイト・レクサーを修正しない理由の一つは、残り数か月でこれが「スタンダード落ち」となるから。
- もう一つの理由は、人々が楽しくプレイして気に入られているカードであるがゆえに、その状態のまま「ワイルド」でも存続させて、引き続きそこで同じ体験をしてほしいから。
カード・デザインとバランス調整のプロセス
ピーター・ウェイレン
- 将来的にリリースされる未来のカードセットは、バランス調整の結果が考慮されていない環境をベースにして開発されていることが多い。
なぜならば、半年以上も先であるリリース日を迎えるまでの期間に、私たちがどのようなバランス調整を施すのかを正確に予測することはできないからだ。 - そのときどきのメタ・ゲームに対する回答が、開発中のカードセットに含まれていくが、その開発期間はそれぞれ1年ほどにもなる。
一般的にはリリース日が近づくにつれて、開発中のカードセットの再調整が行われることになる。 - バランス調整およびカードの弱体化は、来年度以降の対戦環境も見据えて実施されることがしばしばある。
- 私たちは、将来のメタ・ゲームを素晴らしい環境へと導くために、どのようなバランス調整を施せるのだろうかと模索し続けている。
それが常に100%の回答になるとは限らないが、間違いなく私たちの胸に刻まれている指針ではある。
マナコストの修正以外の調整方法について
ピーター・ウェイレン
- 私たちは修正対象のカードの何を修正するのかについても、よく議論している。
例えば、エメラルドの小呪文石については、召喚数を最大3体とする修正案が挙げられた。
依然として2/2を3体召喚する自然の援軍と比べては高性能となるのだが、アップグレードという条件があることを考慮すると過度な弱体化になると思われた。 - 炎の舌のトーテムについては、「付与する攻撃力を1に減らす」という修正案が挙げられた。
それはダイアウルフ・リーダーの劣化版にすることになるので、やはり納得しかねる弱体化だった。 - 平等と狩人の狙いについては、能力の内容をむやみに変更すると、カード名が意味するところと抵触するので、やはりマナコストの変更が妥当という結論に至った。
- (※体力やコストが0.5点単位の数値だったら修正作業はもう少し楽になりそうだ、という問いかけに対して――)
それは、もう!(笑)
各種の数値を1%ずつ修正できたら、どれほど簡単にバランスを調整できるだろう。
相性差が大きいデッキについて
ピーター・ウェイレン
- 特定の戦術に対してはカウンターとなるような、相性差が大きいデッキが、常に対戦環境にいくつか存在できるよう私たちは心がけている。
存在すべきではありながらも、現在はそれらのデッキの使用率が必要以上に高まっていると思う。 - 私が個人的に気に入っていない「奇数ウォリアー」は典型例であり、しばしば議題にも挙げられる。
その原型である「コントロール・ウォリアー」は、「防御力が高い戦士」というウォリアーのファンタジーの一つを具現化している素晴らしいアーキタイプなのだが、「奇数ウォリアー」はそれを極端な方向に発展させては相性差を過度に拡大している。
開発チーム「Team 5」で強いプレイヤーたち
ピーター・ウェイレン
- それはもう、ファイナル・デザイン・チームの全員が猛者(もさ)だと言えるよ!(笑)
元プロ選手のKeaton “Chakki” Gillは皆も知っているだろうし、Dean “Iksar” Ayalaも非常に強い。
Ryan “Realz” Mastersonや、Stephen “Puffin” Changだって、いまだにあり得ないほどに強いんだ。 - 彼らはとてもいい仲間なのだけれど、必ず僕をボコボコにやっつける――(一同笑)
- (※試合開始時には挨拶の感情表現をしてくるのか、という質問に対して―)
してくるし、僕がファイン・プレーを見せると「お見事」と言ってくる。
「ワイルド・フォーマット」の環境について
ピーター・ウェイレン
- 正直に申し上げると、「スタンダード」ほどに高い頻度で「ワイルド」の環境整備に取り組んでいる訳ではない。
しかしながら、私たちにとって「ワイルド」は大変重要なコンテンツであることに間違いはない。 - 昨年はナーガの海の魔女とアヴィアナが悪影響を及ぼしていたことによって、「ワイルド」に注意を払う機会が増えていた。
そして今はバーンズに注意を払っており、これを監視対象のリストに入れている。 - バーンズの弱体化の是非(ぜひ)についてもたくさん議論されていて、それを今回のバランス調整に含めることも考えられた。
バーンズを用いる代表格であるビッグ・プリーストの正確な実態が調査され、ビッグ・プリーストが高い人気を誇るも悪影響と言えるほどの強度ではなかったことが判明したため、今回は修正が見送られた。 - 私たちは、「ワイルド」の環境を激変させることについては消極的である。
「これまでに登場したアーキタイプを繰り返し何度でもプレイできる場所」という存在意義も「ワイルド」にはあるからだ。
依然としてバーンズの放置には疑問符が付けられているが、かつてのナーガの海の魔女やアヴィアナと同程度までに問題視されることがなければ、ビッグ・プリーストの愛好家がこれを永遠に楽しめるよう存続させる方が健全であると考えている。
フィードバックについて
ピーター・ウェイレン
- 私たちは、コミュニティのフィードバックを望んでいる。
開発チームは頻繁に実験を繰り返し、ハースストーンをより良くする要素が何であるのかを模索し続けている。
ここ最近では、もっと頻繁にカードの修正を加えることによって、「メタの変遷を早めるとどうなるのか」というテストを行っている。
その中で、ゲームの改良につながると判断された調整を実行していくつもりだ。
その判断をより正確にするためにも、「より頻繁な弱体化」と「より頻繁な弱体化がもたらす問題」について、ぜひ意見を募集したい。 - 私たち開発チームは、個人個人が様々なハースストーンのサイトを真剣に熟読し、参考にしている。
私個人はReddit、ツイッター、HearthPwn、公式フォーラムなどを中心に多読していて、他のメンバーもそれぞれ異なる場所で記載されているテキストを拾い上げている。
英語以外の言語に詳しいメンバーは、それぞれの言語で書かれたフィードバックに目を向けていて、例えば中国語を話すメンバーは中国独自のソーシャル・メディアにも参加して意見を参照している。
私たちがフィードバックを集める場所は多岐(たき)にわたっているので、どうかお気に入りの場所で気兼ねなくフィードバックを投稿してもらいたい。 - 私、ピーター・ウェイレンに対して直接的に意見を送る場合は、私個人のツイッター・アカウントである @LegendaryFerret 宛てにツイートを寄せていただくことが最も手っ取り早い。
正直に言って、仕事に関連する活動や私生活に費やす時間の割合が多いのだが、可能な限りに対応することを心がけている。
本日は、記念すべき回に、この番組に招いてくれて本当にありがとう。
そして、「The Angry Chicken」配信300回達成おめでとう!
大変素晴らしいことだ。