ハースストーンのゲーム・デザイナーとしておなじみのピーター・ウェイレン(Peter Whalen)氏とディーン・アヤラ(Dean Ayala)氏が、大手ゲーム・サイトのIGNのインタビューに応じました。
このインタビューで明かされた開発段階における逸話と、公開された「天下一ブドゥ祭」のカードの試作バージョンについて掲載します。
ドルイド
- 試作段階のラプターのロア・ゴンクは、現行のラプターの精霊のような、自分のヒーローがミニオンを倒す度に何らかの効果――カードを引く、装甲を獲得する等々――を発動する能力を有していた。
- それをサポートする精霊の方が、「自分のヒーローは疾風を得る」という能力をもたらしていた。
対戦を通してヒーロー自身の攻撃を継続させるには、多量のリソースが必要となるので、精霊の方がカード・ドローを起こす能力となるように変更された。
- 「World of Warcraft」のドルイドは、耐久力を高めるタンク(盾役)、物理攻撃力を高めるアタッカー、魔法攻撃力を高めるアタッカー、回復をもたらすヒーラーの4種の役割を担う(になう)ことができる。
「コボルトと秘宝の迷宮」で装甲を高めさせるタンクのファンタジーをドルイドに加味させた後に、今度は「物理攻撃力が高い野獣のフォーム」をもたらすことが検討されて、どう猛なトロルのドルイドが登場する「天下一ブドゥ祭」でそれが提供されることになった。 - ゴンクにとって不幸である点は、同時期に世界樹の小枝がドルイド・クラスに存在すること。
世界樹の小枝を装備した次のターンにゴンクを置いて飛び掛かりで敵の軍団を倒しまくると、10個のマナクリスタルの獲得を達成できてしまう。
そのために、ゴンクのマナコストは高く設定せざるを得なかった。 - もう一種類の試作バージョンにおけるゴンクの能力は「自分のヒーローは『血祭: 自分のマナクリスタルを満タンにする』を得る」。
ハンター
- ズルジンの試作バージョンの一つは、能力が「雄叫び: 自分のデッキの武器を1つ装備する」だった。
ヒーローパワーの方は「1ダメージを与える。自分のヒーローがダメージを受ける度に、与えるダメージ量が1増える」であり、どちらも「狂戦士」を表現する能力としてデザインされた。 - 装備した武器で、そのヒーローパワーの威力を自ら高めることもできた。
しかしながら、例えば敵陣の小型ミニオン7体から攻撃を受けると、それだけでヒーローパワーが毎ターンに「任意の対象へ8ダメージを与える」というクレイジーな能力になってしまう。
結局、最終デザイン・チームに受け渡される前に、この案はボツとなった。 - 続いて、ヒーローパワーの内容を「1ダメージを与える。使用する度に与えるダメージ量が1増える」などの、時間の経過とともに威力が高まるようなダメージ能力に変えてみた。
すると、ズルジンのプレイ後には「いかにしてヒーローパワーの威力を高めて相手を倒し切るか」ということばかりがフォーカスされるようになり、カードのプレイが軽視される試合展開となってしまうので、やはり見直されることになった。 - これまでのヒーローカードのヒーローパワーが「無限バリュー」がもたらして問題視されてきたことを省みて(かえりみて)、完成版のズルジンは、「能力8割:ヒーローパワー2割」の強度に調整されることになった。
メイジ
- 試作段階の初期から、ドラゴンホークのロア・ジャナライの能力はメイジのヒーローパワーに関連させることが方針となっていた。
- 最初期におけるジャナライの試作バージョンの能力は「呪文ダメージ+3。自分のヒーローパワーにも呪文ダメージが適用される」だった。
ヒーローパワーに関連するカードと、呪文ダメージに関連するカードの両方を同時に活用することが求められるために、真価を発揮させることが難しいミニオンとなってしまった。 - 続いて、「雄叫び: この対戦で自分がヒーローパワーで倒した全てのミニオンを召喚する」という能力に変えてみた。
この能力には問題点が二つあって、まずは「自分が召喚したミニオンに倒される」という、とてつもないストレスを対戦相手に与え得ること。
もう一つは、ヒーローパワーで倒されたミニオンを、双方のプレイヤーがずっと覚え続けておかねばならないという面倒を生じさせること。 - ハンターとメイジが擁する「無限リソース生成器」である凍血の魔王妃ジェイナと死線の追跡者レクサーが「スタンダード」から退場すると、両クラスにとってはリソース生成能力の重要度が高まることになる。
したがって、現在ではあまり用いられていない呪術司マラクラスのような、リソースを生成するタイプのレジェンド・カードは、今後に活躍できる機会が増えるかも知れない。
パラディン
- トラの精霊の最初期バージョンの能力は「自分の呪文は2回発動される」であり、報復の怒りや聖なる怒りが与えるダメージ量を過剰に高めることになるので見直された。
トラを召喚するという今の能力は、ミニオンの軍団を従えるというパラディン・クラスの特徴にふさわしい。 - トラのロア・シャヴァーラのマナコストは30であったが、聖なる怒りとの併用が強力になり過ぎるので25に落とした。
25であれば、依然として対戦中にそのマナコストが容易に0まで下がらないし、適切な数値であると判断された。
ステータス値も様々に変更され続け、当初は9/6あたりであった。 - 急襲によってミニオンを排除しながら回復を実現し、パラディンの起死回生の手段となるシャヴァーラのメカニクスは、ディーン・アヤラ氏が特に気に入っているデザインの一つ。
コストが0になった後で複製させるストラテジーや、時としてOTK(ワン・ターン・キル)のコンボ・パーツにもなる性質についても気に入られている。
しかしながら同氏は、溶岩の巨人が「ワイルド」で残されている以上は、コストが25以上であるカードのリリースは聖なる怒りによる突然死の発生リスクを高めることを肝に銘じている。 - 大祭司ジカールの初期段階の能力は「このミニオンがダメージを受ける度、自分のヒーローが身代わりとなってそのダメージを受ける」だった。
回復パラディンのアーキタイプと相性がよいのだが、このミニオンを容易に排除することができないために、対戦相手に過度のストレスを与える存在となっていた。
そして、その能力は「喧嘩祭」のチームメイト・ミニオンの方に引き継がれ、ストレスを感じることがないコンピュータAIを相手に活躍している。
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