7年前のあの東日本大震災が発生した際には、日本全国のみならず、190以上の国と地域が支援を申し入れました。
主要な支援手段の一つである義援金の募金活動に、ハースストーンをリリースしたブリザード社(Blizzard Entertainment)も参加していました。
Blizzard CS sends their hearts out to those affected in Japan. Stay well and safe.
— Blizzard CS - The Americas (@BlizzardCS) March 11, 2011
募金額は約190万ドルにのぼり、当時は約1億5千万円にも相当する義援金を、同社はアメリカの赤十字社を通じて被災地に寄付したのです。
Thanks to your overwhelming generosity, we've raised more than $1.9 million USD for tsunami relief efforts in Japan! http://ow.ly/5UeJv
— World of Warcraft (@Warcraft) August 3, 2011
日本を拠点とする、あるいは日本を主要マーケットとする、他の世界的な国内外の大企業の支援活動に勝るとも劣らない規模の実績でした。
当時はハースストーンもオーバーウォッチも世に出ておらず、ブリザード社が日本市場へ本格的に進出していなかったこともあり、その報道に対しては小さくない驚きを感じました。
居住国に「Japan」の選択肢はあるものの、日本の郵便番号7ケタを登録しようとすると弾かれた。
ブリザード社が実施した募金活動の手段は、ゲーム開発の企業らしく、ゲームで使用できるチャリティー用のアイテムを販売することでした。
同社の看板タイトルである「World of Warcraft」のゲーム内において、プレイヤー・キャラクターが連れ回すことができるペットを、有料のデジタル・コンテンツとしてリリースしたのです。
「助けを必要とする友のためにアゼロスの森林の奥地から出現した、古代獣の販売を開始します――本日より3か月の間に生じたこのペットの売上金は、全額が東日本大震災の救済活動に充てられます」
This week, 100% of all Cenarion Hatchling adoption fees will be donated to the earthquake and tsunami relief efforts in Japan. #blizzstore
— Blizzard CS EU (@BlizzardCSEU_EN) July 27, 2011
数々のチャリティー活動に携わるブリザード社が、有料コンテンツによる募金で大規模な災害支援を実施したのは、これが初めてのことでした。
震災に大きな関心と懸念を表していた、当時の「World of Warcraft」のコミュニティは、このチャリティーの参加に積極的であったようです。
3か月後には、「1体10ドルであるペットの売上金の総額は、190万ドル以上になりました」と公式サイトで集計結果が発表されました。
単純計算で、19万以上ものアカウントから購入されたことになります。
Thanks to your overwhelming generosity, we've raised more than $1.9 million USD for tsunami relief efforts in Japan! http://ow.ly/5UeJv
— World of Warcraft (@Warcraft) August 3, 2011
「World of Warcraft」は日本向けに展開されていないことから、そのほとんどは海外のプレイヤーがもたらした売上および寄付という訳です。
私たち日本のブリザード・ゲームのユーザーにとっては、忘れることができない恩義となっています。
販売された、そのチャリティー用のペットは、セナリオン・ハッチリング(Cenarion Hatchling)という名のヒッポグリフ種族です。
ヒッポグリフは、高い智力を備える古代の魔法生物の一種で、ワタリガラスと鹿を掛け合わせたような巨大な鳥類です。
アゼロスの大自然の守護に従事する半神セナリウスとドルイドたちに忠誠を誓っており、ゲーム内においてはナイト・エルフのプレイヤーが扱える飛行用の乗り物になったりもします。
ハースストーンにおいても、アージェントの衛兵のイラスト内で登場しています。
セナリオン・ハッチリングは、ミニチュア版のヒッポグリフで、プレイヤーの装飾要素となるペットとして召喚して行動を共にさせたり、ペット・バトルの戦闘要員とすることができます。
販売価格は上述したとおりに10ドルであり、現在も――震災への寄付にはならないものの――ブリザード・ショップで販売されています。
「ハッチリング」は幼生という意味です。
セナリオン・ハッチリングは、まだ十分に育っていない未熟な雛(ひな)でありながらも、自然界のバランスを調和するというヒッポグリフの特性はすでに有しているようで、アゼロス大陸の自然に異変が生じた際には姿を現してきます。
このペットを購入したプレイヤーのもとには、セナリウスの息子の一人である木立の番人(Keeper of the Grove)から、セナリオン・サークル――アゼロス大陸の自然界の保全に努めるドルイドの集団――の感謝状が送られます。
「最近に発生したアゼロスの大災害」とは、当時リアルタイムにゲーム内でデスウィングが降臨し、アゼロス全土に地殻変動をもたらすほどの大災害が起こったことを意味しています。
その「大災害の再建の協力」が、東日本大震災の復興支援をほのめかしていることは明白です。
当然のことながら、被災者であるハースストーンのプレイヤーの方々もいらっしゃいます。
去年に当サイトで実施したアンケートにおいても、以下のような回答を送信された方がいました。
- 震災による被災地で復興中のため、公共交通手段が乏しく、炉端の集いに参加することは難しい。
しかしながら、逆にネット環境さえあれば、ゲームセンターやカードショップがないこのような場所でも遊べる――このことが、カードゲームとしてのハースストーンの強みだと思っている。 - ハースストーンは、キャラクター・デザイン、ゲーム・デザイン、テンポの良さ、マッチング性能と、どれをとっても素晴らしい出来だと思います。
私は元々、別のトレーディング・カードゲームをプレイしていたのですが、震災による津波でカードをすべて失い、復帰も絶望的な状況で、このハースストーンというゲームに出会いました。
そのトレーディング・カードゲームにはデジタル要素もあったのですが、もともとがトレーディング・カードが主流ということもあり、(主観ですが)テンポの悪さが目立って好きではありませんでした。
そのため、所詮デジタル・カードゲームなんてと少しバカにしてチュートリアルを始めたのですが、まず試合全体のテンポの良さと深い戦略性に驚き、そしてかっこいいキャラクター・ボイスや「WoW」を知らなくても魅力的なキャラクター・デザインに魅了されて、ハースストーンにハマっていきました。
東日本大震災が発生してから7年が経過し、被災地の風景が変わり始めた現在においては、その大災害の記憶の「風化」が一つの話題となっています。
復興に何十年もかかると言われるこの震災に対する関心が薄れていくことについて、被災者の方々は「早く忘れたい記憶でありながらも、その事実と教訓は風化させてはいけない」という使命感をつのらせているそうです。
また、「この災害から学べる教訓が生かされなければ、次の災害で助かるはずの命も助からない」という危機感も抱いているそうです。
宮城県紙の河北新報は、昨日の社説で「政府が『復興の進展』を強調すればするほど、被災地支援の出口を探り始めているように映る――被災地の不安は拭えていない。むしろ、膨らみ続けている」と、被災現地の実態を解説しました。
復興に対する全体的な情熱が徐々に低下している時勢の中で、依然として厳しい現実がそこにはあることが改めて喚起されています。
ハースストーンの正式リリース時の直前に簡素ながらも投稿したとおりに、当サイトは相変わらず当時の被災地の模様を忘れることなく、引き続き被災地の復興を心から応援しています。