大きな牙と耳を併せ持ち、髪型が特徴的で、独自の呪術と信仰を発展させてきたトロルは、Warcraftの世界でもとりわけユニークな種族の一つです。
印象的な風貌や振る舞いだけでなく、どの種族よりも長い歴史を誇る原始的な特性が、トロルがWarcraftのファンから根強い人気を得ている理由となっています。
かつてはアゼロス全土に繁栄していた、トロル種族に関する歴史と部族について解説します。
アゼロス大陸は、そこにはびこる旧神たちを封印したタイタン種族の介入によって、今日までの秩序と文明が普及したことが広く知られています。
そのタイタンが原始の生物たちを創造し始める以前から、太古のアゼロス大陸では3つの在来種がすでに定住していたことについては、あまりよく知られていません。
それは精霊のエレメンタル種族、昆虫のアキア(Aqir)種族、そして人型のトロル(Troll)種族です。
最古の種族の一つであるトロルは、まだ広大な一続きの大陸であった時代のアゼロスの全土に、大小さまざまな部族を点在させていました。
彼らが崇拝する野生の神「ロア」が大陸中央部のザンダラー(Zandalar)山脈に多数生息していたために、やがてトロルたちはその山脈一帯に集結するようになりました。
そして大勢力となったザンダラー地域のトロルたちは、トロルの始祖とも言うべきザンダラリ(Zandalari)部族を形成し、黄金都市を築き上げてアゼロス史上初の帝国を樹立したのです。
このザンダラリ帝国では、身分によって扱いを差別するカースト制度が敷(し)かれていました。
時が経つにつれて厳しさを増す、そのカースト制度からの解放を望んだ低身分のトロルたちが、ザンダラリから脱退するケースが相次ぐようになりました。
アゼロス唯一の帝国としての強大さを誇ったザンダラリは、それらの脱退者たちを「哀れな弱者」と見なして鼻で笑い、「結局は庇護を求めて戻ってくるのだろう」と傲慢(ごうまん)に構えて問題視しませんでした。
しかし、脱退したザンダラリ・トロルたちは帝国に戻りませんでした。
東部に広がる森林地帯に移住したトロルは、フォレスト・トロル(Forest Troll)と名を改めて、アマニ(Amani)帝国を築き上げました。
南部に生い茂るジャングルに移住したトロルは、ジャングル・トロル(Jungle Troll)と名を改めて、グルバシ(Gurubashi)帝国を築き上げました。
そして北部の寒冷地に移住したトロルは、上記の2帝国ほどの規模ではないものの、アイス・トロル(Ice Troll)と名を改めて、ドラッカリ(Drakkari)帝国を築き上げました。
分裂後もザンダラリ帝国はドラッカリ帝国と共に共存の道を探りましたが、アマニ帝国とグルバシ帝国の間には激しい敵対心が生じるようになり、かくしてトロルの歴史は乱世の時代へ突入することになったのです。
お互いが敵意をむき出しにした割には、アマニとグルバシとの戦争は思いのほか進展しませんでした。
なぜならば、地底に封印されていた旧神のささやきによって洗脳された昆虫のアキア種族が、凶暴化して他種族を襲い始めて、トロル種族全体の大きな脅威となったからです。
この非常事態に際し、なおも影響力が絶大であるザンダラリ帝国は、アマニ帝国およびグルバシ帝国も含めたほぼ全てのトロルたちと臨時的に同盟を組んで、アキア種族との全面戦争に臨みました。
長い死闘の末にアキア側が敗走する結果に終わったものの、トロル側にも多大な被害がもたらされ、活気に満ちていたトロル全体の発展力は急落しました。
以降にトロルは以前までの繁栄を取り戻すことが叶わず、数千年にも渡ったこの戦争は結局、トロル文化の衰退の第一歩となる契機になりました。
トロル同士の抗争から逃れるようにアマニ帝国から抜け出ていた一派であるダーク・トロル(Dark Troll)は、アキアとの戦争の終焉後に、久遠の聖泉(Well of Eternity)と呼ばれる莫大なエネルギーの源の存在を発見しました。
久遠の聖泉(くおんのせいせん)は、それに触れ続けていたダーク・トロルの姿までをも変えるほどのアーケイン・パワーを授けて、彼らをナイト・エルフという神秘的な種族に進化させました。
魅惑なアーケインの力に取りつかれたエルフたちは、それを乱用することで、力を欲する悪魔の軍団を宇宙の果てから呼び寄せてしまい、悪魔との大戦争を引き起こしては久遠の聖泉を暴走させてしまいました。
久遠の聖泉の暴走はアゼロス史上最悪の災害として記録され、実に8割近くの地表が海底に沈没――もちろん、地上で生活していたトロルの人口も激減しました。
最大勢力であったザンダラリ帝国は、領土が島に縮小されて行方(ゆくえ)がわからなくなり、本土との交易も分断されました。
他のトロルの派閥も、爆心地である大陸中央から遠く離れた地域だけが存続し、それぞれ存亡の危機を迎え始めることになります。
フォレスト・トロルのアマニ帝国は、元々はアマニ所属のトロル種族であったエルフたちを弾劾(だんがい)して、それとの抗争に明け暮れた末に崩壊しました。
ジャングル・トロルのグルバシ帝国は、その大部分が邪神のロアのハッカー(Hakkar)に救いを求めるカルト集団に成り果て、それを抑止すべく遠征してきたザンダラリ帝国とのトロル同士の内戦によって散り散りになりました。
アイス・トロルのドラッカリ帝国は、北方に逃れてきたアキア種族の進化系であるネルビアンに襲われ、さらにはネルビアンを配下としたリッチキング率いるスコージ軍によって征服され、1万6,000年以上もの歴史に幕を下ろしました。
ハースストーンの拡張セット「天下一ヴドゥ祭」は、このように好戦的で武闘派である特徴を持つトロルの様相を表現する作品です。
原作のトロルたちには「闘技大会のチーム戦」などに参加する意思も余裕も到底ないことでしょうが、同種族同士の誇りを賭けた闘争というテーマ自体はWarcraftのトロル種族と実によくフィットします。
破滅も辞さないほどの闘争心や、それを支える原始的な呪術や精霊のロア、そしてアゼロス最古の在来種としての自負と矜持(きょうじ)という、トロルが有している魅力を存分に楽しめる舞台が展開されます。