(Ice Troll / Drakkari Empire)
アゼロスの最北部を新天地としたトロルの難民たちは「アイス・トロル」と分類されて、そこに広がる寒冷地帯にドラッカリ帝国を築きました。
アイス・トロルたちはゲリラ戦を得意とします。
操られたトルヴィア番兵であるオブシディアン・デストロイヤーを用いて、ネルビアン種族が襲ってきた際にも、持ち前の狡猾的(こうかつてき)な戦術とレンジャー部隊の遠隔攻撃によって退けて、北方の領土を維持してきました。
そのアキアの襲来以外には大した脅威がなく、安定した近隣の侵略によって勢力拡大を続けましたが、他の帝国と同様にドラッカリもまた、久遠の聖泉(Well of Eternity)の暴走によって領土の大半を失い衰退しました。
アイス・トロルの文化は海を隔てて南北に分裂してしまい、北方ではドラッカリ部族が、南方ではフロストメイン(Frostmane)部族が、それぞれ立て直しを強いられました。
まず、本土に残されたフロストメイン部族は、かつてはアイス・トロルの領土であったダン・モロー(Dun Morogh)地方の雪原地帯を新たな居住地とすることになりました。
ダン・モローではいつしかドワーフ種族が本拠地を構えて広く繁栄していて、その支配権を取り戻そうと決意したフロストメインは、「よそ者」であるドワーフの排除に取り組み始めました。
この頃のドワーフ軍はトログ種族の襲撃の対応に追われていたため、その戦力が手薄となる隙を突くようにして、フロストメインはドワーフを効率的に攻撃しました。
ドワーフの首都アイアンフォージ(Ironforge)を急襲した際には、その戦闘中にマグニ・ブロンズビアードの妻であるエイミアー(Eimear)女王の殺害までも果たしています。
フロストメイン部族は、小さな勢力なのでダン・モローの完全奪還までには到底至らないものの、現在までもドワーフに対するゲリラ襲撃を繰り返し散発させています。
一方で、ノースレンド(Northrend)と呼ばれるようになった北の小大陸に残されたドラッカリ部族は、同じくそこに残されたドラッカリ帝国本部の運営に再び携わりました。
当時のこの極寒の地においてはトロル以外で社会的に繁栄できる種族が存在せず、本土との遮断が外敵の遮断にもつながったために、ドラッカリの復興の障害はさほど多くはありませんでした。
彼らは農業を営む(いとなむ)などして淡々と勢力の維持に努めて、他のトロルの部族と比しては長く平穏に過ごしてきました。
――しかし、そのドラッカリも、ついに真の脅威と言える侵略者と対峙することになったのです。
悪魔の将軍によってこの寒冷地に捨て置かれ、堕落した聖騎士の王子アーサスを自分の肉体として迎え入れた、死霊の王リッチキングがノースレンドに到来したのです。
後にアゼロス史上最大級の脅威にもなったリッチキングは、吹雪舞う最北地域に築いたアイスクラウン城塞(Icecrown Citadel)に居を構えて、その最上階にある凍てつく玉座(Frozen Throne)からアンデッドのスコージ軍を指揮して、手始めに拠点の周囲の完全支配に取り掛かりました。
真っ先にスコージ軍の襲撃の対象となったドラッカリのトロルたちは、勇ましくも対抗して善戦したのですが、彼らにとっては全盛時代ですら到底かなわない相手でした。
戦死したトロルを蘇らせて仲間に取り込むリッチキング特有の軍拡によって、ドラッカリ軍は加速度的に兵力差を広げられて追い詰められます。
最後に残った拠点の首都ガンドラク(Gundrak)で籠城(ろうじょう)するドラッカリのトロルたちは、起死回生の逆転を果たすべく、何と崇拝してきた精霊の神のロアたちをいけにえにすることによって、そこから強大なパワーを抽出し始めたのです。
ガンドラクの深部においては、殺された神々が発する暗黒のエネルギーで満たされたことによって、絶望感で一杯だったドラッカリ・トロルたちの精神がついに崩壊し、そのエネルギーとともに暴走しかねないと伝えられるようになりました。
――同じくスコージの討伐を目指したアゼロス本土のノースレンド遠征軍は、この狂気を放置しておくと自分たちにとっての大きな災厄になりかねないと断定しました。
そこで依頼を受けたプレイヤーの冒険者たちは、ダンジョンのガンドラクに乗り込んで、ドラッカリの最後の拠点を制圧することになります。
ザンダラリから独立した帝国の中では、16,000年と最も長く存続したドラッカリ帝国は、こうしてその歴史の幕を閉じました。