アゼロス唯一の帝国であったザンダラリにおいては、厳しい身分制度による差別と支配が横行していました。
低い身分のトロルたちは、自分たちの尊厳を主張するために、ザンダラリから離れてそれぞれ独自の社会を築き上げました。
特筆すべきトロルの独立帝国として名を刻んだ、アマニ、グルバシ、ドラッカリについて解説します。
(Forest Troll / Amani Empire)
アゼロスの北東地方を新天地としたトロルの難民たちは「フォレスト・トロル」と分類されて、そこに広がる森林一帯にアマニ帝国を築きました。
他のトロルの部族や帝国と同様に、アマニ帝国もまた、隣接するトロルの他文明との勢力争いを繰り広げました。
その中にあって争いを好まず、平和と自然界との調和を望む、トロルとしては特異的な一部族がアマニ帝国に存在しました。
戦乱から逃れるように霊峰ハイジャル山の薄暗い崖地に移住したその部族は、太陽光を嫌う夜行性であることから、いつしか「ダーク・トロル」と呼ばれるようになりました。
ダーク・トロルは、ハイジャル山に住む知的生物のドライアドやフェアリードラゴンらと遭遇することで神秘性を高めていきました。
そして、ついにはアーケイン・エネルギーの集合体である久遠の聖泉(Well of Eternity)を発見し、その力を日常的に取り込んだことによって、ダーク・トロルはナイト・エルフ種族に進化しました。
ナイト・エルフは崇拝対象を精霊のロアから月の女神エルーンに替えたのですが、その一部がエルーンの教えや導きに背き(そむき)、ドルイド教よりもアーケインの魔法に傾倒するハイ・エルフに派生しました。
アーケインの莫大なエネルギーに魅せられたハイ・エルフたちは、久遠の聖泉を乱用し、そのことによって魔力の匂いを嗅ぎつけた悪魔の軍団を呼び寄せてしまい、そして悪魔との大戦中に久遠の聖泉を暴走させてアゼロス大陸を崩壊させました。
全土の8割も沈没した大陸崩壊によって、アマニ帝国も半壊しました。
帝国の主要構成員であるアマニ部族のトロルを中心にして、アマニ帝国の再興が進められることになります。
そして彼らは、アゼロス最北東のローデロン地方――――後にアーサスが王子となるローデロン帝国の領土――を統治して、城塞寺院ズルアマン(Zul’Aman)を建立(こんりゅう)しました。
その頃ハイ・エルフたちも、大陸崩壊の要因となったアーケインの使用を禁ずるナイト・エルフの総意に反発し、魔力の研究を発展させるための新たな拠点を探し求めて、このローデロン地方に移住してきたのです。
好戦的という種族特性を持つトロルのアマニ帝国は、突然に自分たちの領土を侵犯してきたハイ・エルフたちを即座に襲い始めました。
アマニのトロルと、かつてはアマニのトロルであったエルフによる、いわゆるトロル戦争(Troll Wars)の幕開けです。
兵力差で圧倒的に上回るアマニのトロルと、強力な魔法で対抗するハイ・エルフとの争いは、2,000年以上にも渡って繰り広げられました。
徐々に優勢となるアマニ軍に追い詰められたエルフ軍は、付近で建国を始めていた人間種族と交渉し、かつては下等種族として軽蔑(けいべつ)していた彼らにとうとう援軍の派遣を願い出たのです。
この頃の人間種族は統治力も軍事力も乏しく、やはりアマニ帝国の襲撃に悩まされていたために、絶大なパワーを持つ魔法を教えるという申し出を喜んで受け入れて、トロルへの逆襲を果たすべくエルフに加担しました。
適応力だけは非常に高い人間種族は、伝授されたアーケインの魔法を短期間で習得し、100人もの上級メイジをエルフと共に山地へ送り込んで、細い山道から総攻撃してくるアマニ軍をまとめて魔法で焼き払いました。
このときに逃げ道を失っていたアマニの大軍が全滅したことを契機に、アマニ帝国は大きく衰弱し、退廃の道をたどることになります。
帝国が崩壊した後のアマニは、不世出(ふせいしゅつ)のリーダーであるズルジンの導きによって、どうにか士気が保たれて、エルフたちとの抗争を継続させました。
――その後にハイ・エルフがブラッド・エルフと名を改めてホード陣営に加わったことによって、人間(アライアンス陣営所属)とブラッド・エルフに対して復讐を誓っているアマニは、アライアンスとホードの両陣営と敵対することになりました。
両陣営のプレイヤーの冒険者たちは、アマニの本拠地である大型ダンジョンのズルアマンに乗り込み、両陣営にとっての危険分子であるズルジンおよびフォレスト・トロルを鎮圧することを依頼されます。
ズルジンが討伐された後に、生き残ったアマニ部族はダアカラ(Daakara)をリーダーの後継者として擁立し、ザンダラリ帝国に編入してズルアマンを再興させたのですが、これを脅威と見なしたヴォルジンが率いる冒険者たちによって再び滅ぼされました。