何の制限もなくデッキを組んでゲームをすると、昔からやっている人と新しく始めた人とで「持っているカードの量の差」が顕著に現れてしまい、「古参=強い」というつまらないゲームになってしまう。
これを解消するための「ここからここまでの範囲の中のカードだけでデッキを組む」という取り決めを「フォーマット」という。
ハースストーンを含めた多くの対戦型カードゲームは、マジック:ザ・ギャザリング(以下マジック)の派生作品です。
元祖とも言うべきマジックの長年にわたる実績からは、学ぶべき事項がたくさんあります。
先週発表されたハースストーンの「スタンダード・フォーマット」は、マジックが1995年に導入した同名のデッキ構築ルールと類似する内容でした。
ハースストーンを永続的に稼働させるために、20年以上もの稼働期間を誇るマジックに敬意を払いながらも倣う(ならう)のは合理的なことです。
マジックはカードゲームとして偉大であり、意義的にも孤高の存在であると私は思っています。
そのマジックを長年プレイし続けてきたプレイヤーたちが、ハースストーンの「スタンダード・フォーマット」の仕様をどのように評したのかを掲載します。
ニュース – 「スタンダード・フォーマット」の採用が決定
特筆すべきなのが、マジック経験者と自称するプレイヤーの中では、ハースストーンに「スタンダード・フォーマット」が必要ないという意見がほとんどなかったことです。
採用しないなどあり得ないこと、などと主張する人もいたほどです。
その最大の理由は、採用しなければ対戦環境が淀んで停滞することです。
対戦型カードゲームは、存続するためにエキスパンションとも呼ばれる拡張セットをリリースし続けます。
新しいカードを発行することで、プレイヤーが飽きて離れないようにするのです。
そのため、カードの総数は際限なく増え続けます。
このことが、プレイヤーと開発者の両方に問題を生じさせます。
プレイヤーが抱えることになる問題とは、せっかく新カードがリリースされても、対戦環境がさほど変わらなくなることです。
過去にリリースされた各セットの最強のカードが常に使用可能であれば、それらが多用される「いつもの」対戦が相変わらず繰り広げられることになります。
ハースストーンでは、最近にInspire(激励)やJoustという個性ある能力が追加されました。
しかしながら、これらの能力が既存のカードに置き換わって主力になったとは言いがたい結果に終わっています。
既存のカードを退場させねば、プレイヤーは新鮮味のないマンネリ化した対戦をいつまでも強いられることになります。
開発者が抱えることになる問題とは、新カードを作成する際に多大な負担がかかることです。
新たに作成するカードと、際限なく増え続ける使用可能なカード群との適切なバランスをとることは事実上不可能です。
そして、過去にリリースされた強力なカードが退場せねば、それらよりも魅力的に映る新カードを提供しづらくなります。
これは、新たなセットをプレイヤーにアピールする際の大きな障害となります。
新しいセットがアピール不足に陥ると、既存のカードが持つ能力をただ増強するだけの、パワー・クリープと呼ばれるカードのインフレ化が慣習化される可能性も生じます。
5/1のマグマ・レイジャーと同じコストである、5/2のアイス・レイジャーが登場するようなインフレが続くと、過去のセットのカードは絶対に使用されない遺物と化してしまいます。
「スタンダード・フォーマット」の必要性を認めるという意見の中で少なくなかったのは、これを採用する方がゲームの収益が増えるということです。
マジックにおいては、全てのカードが使用可能である「エターナル・フォーマット」をプレイし続ける方が、「スタンダード・フォーマット」をプレイし続けるよりも安上がりとなります。
強力で汎用性がある過去のカードを多数保持しておけば、多額の費用をかけて新しいセットのカードをかき集めなくても、それなりに勝利できるからです。
過去の強力なカードが使用不可となる「スタンダード・フォーマット」では、新しいセットのカード群の全体的な重要度が高くなります。
ここで勝利し続けるには、セットの入退場が発生するたびに、費用をかけて新カードをかき集める必要があります。
このことが定例化したマジックの正当なビジネスモデルを、ブリザード社が踏襲したのは当然であるとのことです。
「スタンダード・フォーマット」の採用には、新規プレイヤーが参加しやすくなる利点があることも指摘されました。
過去にリリースされたカードが全て使用可能であり続けることは、新規プレイヤーが参加する際に様々なストレスを与えます。
無数に存在するカードの内容を一通り習熟するのは苦痛な作業であるし、知らない戦術やカードによって訳も分からずに倒される機会が増えてしまいます。
過去のカードを順次退場させることで、こうしたストレスが大きく軽減されます。
新規参加者数が減少すればゲーム自体が衰退し、既存プレイヤーのためにもならないことが併せて指摘されていました。
なお、ハースストーンにおいては、新規プレイヤーが参加しづらい環境を改善する案として、コミュニティの大多数がこの「スタンダード・フォーマット」の採用を提言した経緯がありました。
ハースストーンにおける「スタンダード・フォーマット」の採用は、多数のコミュニティによる提案だったはずでした。
なのに、いざ採用となると、少なくない反発がコミュニティから出るという思わぬ現象が発生しました。
このことに対して、マジックのプレイヤーたちは様々な反応を見せています。
その中で多かったのは、大げさに叫んでいる反対者ほど、対戦型カードゲームの初体験者ではないかという憶測です。
ほとんどが長期的な視野を持たない意見であり、上記した採用メリットを一つもくつがえせない意見であり、多分に利己的な意見であるからだというのです。
また、去年に発生した「スタンダード・フォーマット」の採用に関する議論の内容をきちんと踏まえたうえでの意見なのだろうか、などという疑問の声も一部ありました。
逆に、反対側に同調する意見の中で多かったのは、カードの修正を満足に行わないまま、アンバランスなカードを切り捨てる格好となったことへの批判です。
デジタル・ゲームのハースストーンは、物理版ゲームのマジックとは異なり、発行したカードを修正することができるカードゲームです。
ドクター・ブームがいつまでもデッキに起用され続ける恐れがあると言うならば、まずそれを「それなりの起用率」となるよう修正すべきではないだろうかというのです。
デジタル・カードゲームならではのアドバンテージを活かしきらずに、できる修正をなおざりにして、強いカードを強制退場させた印象を残したことには苦言が呈されました。
また、「スタンダード」は不要とは言わないが、「現段階では」必要性が希薄であることには賛同するという意見もありました。
全てのカードが使用可能であるマジックの「エターナル・フォーマット」は、プレイする分には楽しくても、ゲーム・バランスを整えることは到底不可能な混沌とした対戦環境であるとのことです。
現在のハースストーンの対戦環境は、まだそこまでに陥っていないというのです。
問題視されているドクター・ブームや謎めいた挑戦者でさえ、マジックにおける凶悪なカード――例えばグリセルブランドやエムラクール――と比しては、たわいない存在なのだそうです。
存在するだけでゲームの存続に悪影響を与えかねないカードが、まだハースストーンにはないことが、「スタンダード」採用の必要に迫られていない理由の一つとされています。
「スタンダード・フォーマット」のルール自体の内容ではなく、それに付随する取り決めである「スタンダードから外れたセットが購入できなくなる」ことについて、マジックのプレイヤーから批判が集中しました。
カードパックやアドベンチャーが購入不可能となり、入手手段がDustを消費して作成することに限定されると、レアリティが低いカードを揃えるにも苦労することになります。
現金で購入される機会を運営側が自ら損失するなど、おおよそ信じがたいという、厳しくも正当な意見もありました。
公表された「ユーザー・インターフェースが簡素になる」というメリットだけでは、プレイヤー側と運営側の双方に生じるデメリットを埋めきれないのではないかと見られています。
私もこの批判に強く同意します。
新規プレイヤーが、参加する際に「自分には過去のアドベンチャーをプレイする権利がない」と知ったら、どう感じるでしょうか。
既存のプレイヤーの方が過去のセットのカードを特別に収集しやすくなるのは、「スタンダード・フォーマット」の採用理由の一つである「新規参入の障害の排除」と相反しないでしょうか。
新規プレイヤーのためにも、過去のセットを購入する手段が残されることを望みます。
ショップ内が過去のカードパックやアドベンチャーであふれ返る、ユーザー・インターフェース問題に関しても、様々な対案が提言されました。
ショップに「ヴィンテージ」コーナーを設け、ここに「スタンダード」対象外となった過去のセットを一同に集め、別枠で販売するという提案には、複数の賛同がありました。
もちろん、この「ヴィンテージ」コーナーでは、「スタンダードでは使用できない」という注意書きが表示されます。
また、過去のセットに属する全てのカードを「ワイルド・パック」という1つのカードパックに集約させて販売することで、ショップで販売されるカードパックの種類を一定数に保つという提案もありました。
当然のことながら、ハースストーンの「スタンダード」とマジックの「スタンダード」の内容が比較されました。
新設されたゲーム・ブログのOld Guardianでは、両者の最も大きな相違点として、「固定化されたカードセットの有無」を挙げました。
その内容を無断で掲載させていただきます。
ハースストーンの「スタンダード・フォーマット」では、カードセットの切り替えが発生しても、基本セットとクラシック・セットのカードは常に使用できます。
基本セットとクラシック・セットは、「スタンダード」に固定化されるカードセットとなります。
マジックの「スタンダード・フォーマット」では、特定のカードセットが固定化されることはありません。
マジックは物理版のカードゲームだからです。
物理版カードゲームのカードは売買されます。
したがって、各カードセットの販売数には頭打ちがあります。
このことが、マジックにおいては基本セットであっても毎年刷新され、古いものから「スタンダード」対象外となる理由です。
「スタンダード」の対象として固定化されるカードセットは、将来的には新規に購入されることなく、中古市場でそろえられることになります。
ハースストーンは、デジタル・カードゲームであり、カードを売買するシステムを提供していないために、「スタンダード」対象セットの固定化が可能なのだと説明されています。
何年経過しようとも、新規プレイヤーがクラシック・セットのカードを入手するには、他者から譲り受けることなく正規に購入または作成せねばなりません。
この固定化は、ハースストーンの「基本無料」というアピール・ポイントを強調します。
マジックのように、いずれ全てのカードセットが「スタンダード」の対象外となるのであれば、無料でプレイを続けるプレイヤーには大きな負担が生じます。
必ず「スタンダード」の対象となるセットが存在すれば、そのセットのカードだけでもそろえれば、いつまでも「スタンダード」に参戦できます。
少ない支払いでも無理なくプレイを継続できることになります。
物理版カードゲームのマジックにはない、デジタル・ゲームならではの特色です。
開始される前の現時点からすでに、ハースストーンの「スタンダード・フォーマット」において留意すべき事項が複数指摘されています。
その中で主要な2つを掲載します。
まずは、「スタンダード」の対象として固定化されたカードセット(基本とクラシック)の中に、アンバランスなカードがあることです。
とりわけ、膨大なテンポ・アドバンテージをもたらす練気、野生の繁茂、段取りなどは、どの世代の「スタンダード」においても起用されるであろう、汎用性がある強力なカードであると指摘されています。
このようなカードが常に使用可能となることは、「スタンダード・フォーマット」を採用する意義を少なからず失わせると危惧しています。
なお、「スタンダード・フォーマット」が開始される際には、基本とクラシックのカードの中から20種類未満が弱体化されることを、開発陣が明言しています。
もう一つは、主流デッキやメタ・ゲーム(主流デッキに対抗する戦略)が認識される速度に対応できるかということです。
情報が即座に伝達される現代においては、メタ・ゲームの実態も瞬時に伝達されます。
この事実こそが、マジックが「スタンダード落ち」を年2回に増やした最大の理由なのだそうです。
ハースストーンの「スタンダード・フォーマット」では年に1度しかカードセットの切り替えがありません。
固定化されるカードセットが存在することから、その割合も減少します。
「スタンダード」の対象外となるカード数が少ないほど、主流デッキやメタ・ゲームは大きく変遷しません。
カジュアル・プレイヤーが多いハースストーンといえども、メタ・ゲームの変遷速度が遅いことに不満を抱かれることがないだろうかと懸念されています。
プロ・ツアー殿堂入りも果たした、マジックの世界的な名選手であるBrian Kibler氏は、自身のYoutubeチャンネルにおいて、ハースストーンの「スタンダード・フォーマット」を批評しました。
Kibler氏は、基本セットとクラシック・セットが「スタンダード・フォーマット」の対象として固定化されることについて言及しています。
この仕様においては、「スタンダード」が切り替わったとしても、その効能が限定的になることが指摘されました。
例えば、大物ハンターが必ず存在することによって、いつの世代においても攻撃力が7以上であるミニオンを起用しづらくなります。
このような固定化された制約が多数あると、新しいフォーマットがもたらす新鮮味が損なわれるというのです。
そこでKibler氏は対案として、「スタンダード」の固定カードセットを完全に固定化するのではなく、「固定セット内のカードのローテーション」を採用することを提言しました。
固定セットである基本セットとクラシック・セットの何割かのカードだけを使用可能とし、「スタンダード」の切り替えと同時に、その使用可能なカードも他の何割かに切り替えるというものです。
このルールにおいては、クラシック・セットのカードである大物ハンターも、「スタンダード・フォーマット」で使用可能となったり使用不可となったりします。
基本セットとクラシック・セットが重点的に収集される存在となることを維持しながら、切り替えごとに決まりきった戦術が数多く除外されることが利点であると説明しています。
この提案は、マジックの経験者と未経験者の両方に大きな波紋を広げている模様です。
Hearthstone 公式フォーラム(As a Player who plays MTG Eternal formats ほか)
Reddit Hearthstone(“There will be no full dust refund for Naxx or GVG cards.” – Zeriyah Neither for normal, nor for golden cards you crafted. ほか)
HearthPwn – General Discussion Forum
Old Guardian’s blog – What is the difference between the Standard format in Hearthstone and Magic?
ESPN (esports) – Mimicking Magic – Hearthstone’s big change
Youtube (Brian Kibler) – Thoughts On The New Standard Format
日本語版 MTG Wiki
マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト – スタンダードの決定