もう一つの特殊な「選別」について解説しよう。
戦闘中にリソースを気にせず全力を出し尽くすDPSとは異なり、Healerは「消費リソースの強弱」も都度に選択し続けていく。
HealerのHeal Workは最初から最後まで全力疾走をキープできるようなメカニズムになっていない。
必要以上にHealingをかっ飛ばしていくと、被害が甚大となる肝心のタイミングで味方を守りきれなくなる。
戦闘終了までの展開を想定しながら、被害の大きさに応じた適切な強度のHealingとなるようにリソースの配分を調整せねばならない。
スポーツの持久力の調整にも似たこのペース配分とスペルの選別もまた、記録や見た目には表れない、地味ながらも重要な作業である。
配慮せねばならないリソースの代表格がマナだ。
例えるならスポーツ選手のスタミナ、自動車のガソリンにあたり、消耗し尽くして枯渇させると息切れとなって働けなくなる。
WotLK拡張などの一時期の例外を除き、マナの消費ペースの管理もHealerが備えておくべき能力だ。
マナが切れてHealができなくなったHealerは死んだも同然であり、その死はすなわちグループ全滅に直結する。
使用回数が限られている強力なCooldownスペルやアイテムなどもリソースに含まれる。
再使用時間が比較的短いCooldownスペルは、出し惜しみし過ぎると合計使用回数が減るという別の意味の浪費につながるのもまた悩ましいところだ。
リソースの節約にあたって念頭に置くべきポイントは「絶対に死なせてはならないが、HPが1まで低下しても死ななければよい」という真理である。
WoWは現実と異なり、瀕死の重症であっても全快時と同じように動ける不思議な世界だ。
仮にHPが残り1まで陥ったとしても、その後に10秒間は何のダメージも発生しないとわかりきっているならば、少なくとも5秒間は完全に放置していたって問題はない。
ここでマナ効率が悪い大Healや貴重なCooldownスペルをあわてて連射する必要はない。
対象者本人の回復スペルの発動を待っていてもいいし、他のHealerが付与したHoTに任せてもいいし、マナ効率がよい小Healでゆっくりと回復していってもいい。
結果的に誰も死なないのであれば、Healingを緩慢にしたそのリソース節約の選択は正解となる。
その正解は、戦闘の残り時間に持ち越せるマナ残量の増加という報酬をもたらす。
一方で「万が一にでもHeal不足で死なせたらHealer失格」という、当たり前の真理も存在する。
Healを温存したために味方を落とすのは、初心者がやってしまいがちな最悪のミスの一つだ。
Healにあたっては、襲いかかるダメージの量や味方の行動を予測してHealの緊急度を計測する。
緊急度が低ければ、味方が重症でもマナの効率性を重視する。
緊急度が高ければ、そのために温存してきたマナを惜しみなく費やしてHealを投入する。
Heal Workとは、全員を生かしきるギリギリの線を追求するチキン・レースのような作業だ。
限られたリソースを効率的に運用し、一つ一つの被害ポイントについてより少ないリソースで「Heal不足で味方が死ぬ」という最悪の結果を回避し続けていく。
それを追求するには、自身の能力を把握しておくのはもちろんのこと、エンカウンターのメカニズムについて十分に熟知しておかねばならない。
習熟から得た予測を基に、起こり得る被害のタイミングと規模について、その緩急を全体的にイメージする感覚を持つといいだろう。
完全に休憩できるブレイク・ポイント(5人制ダンジョンなら完全クリア時)に到るときに、ちょうどリソースを全て使い果たすようなペース配分が理想だ。
リソースが大幅に余るようならば、戦闘時間の短縮のためにもう少し無理をしてもいい。
攻撃にリソースを回したり、DPSに守備の負担をかけないほどまでHeal量を高めたり、オブジェクトの操作等の雑用に走ったり、Healerの数を減らして代わりにDPSを入れるなどの措置をとる。
適切な「消費リソースの強弱」を保つためには以下の3つの数値について意識する。
「Heal Per Mana」の略で、Healスペルの1マナあたりの回復量を示す。
この値が高いほどマナ効率が高いHealスペルであることを意味する。
複数人を回復できるHealである場合には、Heal総量を対象人数分に換算する。
自分が使えるHealスペルについては全てHPMを算出し、マナ効率の良し悪しを把握しておこう。
危険度が低いときに行うべき、マナ効率に優れたHealingの組み立てを習得するためだ。
「Heal Per Second」の略で、Healスペルの1秒あたりの回復量を示す。
この値が高いほど瞬間最大の回復量が高いHealスペルであることを意味する。
強力なCooldownスペルや消費アイテムを併用するケースも考慮する。
HPMとは対象的に、危険度が高いときに行うべき、迅速なHealingを施す際の指標となる。
危機的状況において、その緊急具合に応じた出力強度のHealingを定めるために把握する。
一般的に、HPSが高いHealingはHPMが低い(マナ効率が悪い)という相反する傾向にある。
高いHPMのスペルによって節約したマナは、緊急時に高いHPSのスペルで放出する。
対象の体力が最大値であるのにHealするなどして、無駄になったHealの量を表す。
ダメージ・メーターからでも確認できる。
Over Healingが目立つポイントでは、無駄になったHealの分だけリソースが大きく浪費されたことを意味している。
これを低く抑えるほどHealの実効性が高まるので、リソース節約の最適化を求めるための指標となる。
RaidフレームでIncoming HealやHoTの回復量を表示させる機能は、Over Healingの軽減に役立つだろう。
戦闘ログを参照できるサイト等で、上級プレイヤーのOver Healingのログを参照して見比べると、自分の過剰なOver Healingのポイントを特定しやすい。
Druidは事前HealのHoTがOver Healingになりやすいなど、クラス、スペック、エンカウンター、Heal担当によってOver Healingの量は大きく異なる。
異なるクラスのOver Healingを見比べるなどの行為は無意味であるので注意しよう。
Over Healingに配慮しすぎたHeal不足で味方を死なせる悪例は枚挙にいとまがない。
初心者である内はこの値を気にせず、まずは味方を生かすことだけに集中すべきである。
Healerガイド一覧
「World of Warcraft」Healer列伝 #6
(Archbishop Benedictus)
かつてのベネディクトゥス大司教はアロンサス・ファオルに師事し、その師と同様に敬虔かつ慈愛の精神に満ちていて、ストームウィンドの光の大聖堂で主任司祭を任されるほどに敬われる偉大な聖職者であった。
度重なる災難を嘆いて強大な旧神に救いを求めるカルト集団が暗躍する時代に入ると、その一派である「黄昏の鎚」は、邪悪な旧神と真逆の立場にいながら同じく現世を嘆いていたベネディクトゥスに接近する。
「黄昏の鎚」によってゆっくりと着実に洗脳されていったベネディクトゥスは、とうとう自ら旧神と接触するまでに至ってしまい、夢の中にまで侵入してくる旧神によって容易に「黄昏の鎚」の信者へ取り込まれた。
旧神配下と成り果てた彼は、そうとは知らずに救いを求めに来る光の教徒たちを旧神の教団へ勧誘したり、旧神の復活の鍵となるデスウィングを防衛するためにスロールたちと対峙するようになる。