2016年5月中旬の10日間に、ハースストーンを取り扱う情報サイトで「racism(レイシズム)」「racist(レイシスト)」の単語が飛び交いました。
いずれも人種差別に関する意味を持つ単語です。
人種差別は、ゲームやスポーツの場に限らない、重大なハラスメント(嫌がらせ)であると世界的に認知されている問題行為です。
今回は、6回にわたる連載を設けて、e-Sportsにおけるハラスメントについて詳しく掲載します。
名誉ある大会の「DreamHack Austin 2016」のハースストーン部門は、不名誉にも負の歴史として語り継がれることになりそうです。
大会の内容自体は見応えある素晴らしいコンテンツであったにもかかわらず、コミュニティを騒がす事件が発生していたからです。
事件の被害者となったのは、この大会に出場したアフリカ系アメリカ人であるTerrence “TerrenceM” Miller選手です。
肌が濃い褐色であるTerrenceM選手が中継配信で登場するたびに、配信先のTwitchのチャットが、「黒人」を不当に揶揄(やゆ)する人種差別の表現であふれ返りました。
大舞台で決勝進出という躍進を果たしたTerrenceM選手が勝ち上がるごとに、心ない視聴者による差別表現はヒートアップしました。
一部が醜悪であるとも度々指摘されてきたTwitchのチャットは、この大会においては、とうとう決勝戦まで普段よりも見るに堪えない内容となる事態に発展しました。
この事件についての配信管理者による釈明が、e-Sportsの情報サイト「GosuGamer」で掲載されると、話題が話題を呼ぶことになりました。
そして「DreamHack Austin 2016」は、強豪のChakki選手が初めて大舞台で優勝に輝いたという結末ではなく、差別問題の方が大きくクローズアップされる大会になってしまいました。
「Daily Dot」のインタビューに応じたTerrenceM選手は、配信先でこのような事件が発生していたことを、全ての試合が終わるまで知らなかったと打ち明けました。
「大会中に関わった全てのスタッフや選手の対応は素晴らしいものだった」と評していることから、幸いにも、配信上で発生していた今回の差別問題がTerrenceM選手のパフォーマンスに影響することはなかった模様です。
人種差別の被害者になったことについて、「ネット上でも珍しいことではない」「驚いてはいない」と冷静に回答したTerrenceM選手は、「配信を観ていた親族の目に入っていなければ」と願うコメントを残しました。
しかしながら、残念なことに彼の親族は配信先の酷いチャットを目にしていて、チャットの表示が消えるフルスクリーン・モードで観戦せざるを得なかったようです。
TerrenceM選手は「人種差別を問題視してくれることは嬉しい」と前置きしながらも、「人種差別発言を面白がることは人種差別主義であることと同義」と述べて、愉快に盛り上がる手段としても差別表現が用いられたことを憂いました。
いじめや言葉の暴力などについても同じことが言えるのですが、ハラスメントの被害者は、想像をはるかに超える大きさの心理的ダメージを負っています。
加害者が楽しむために軽い気持ちで行ったとしても、その気持ちの何倍もの重さとなる傷を負わす結果になることは、全ての人に認識されねばなりません。
多様な人種が同じ地域で生活している国際社会においては、人種差別は重大な犯罪であるとみなされています。
人種の差異だけが事由となって、人権が侵害されたり、パーソナリティが拒絶されたり、尊厳が侮辱されるなどの事態は、根絶される必要があります。
続く第2回では、女性プレイヤーに対するセクハラ(セクシャル・ハラスメント)について掲載します。