ハラスメントも含めた各種脅威の対策は、発生後に対応が発動される有事対策と、発生を抑止するよう働きかける未然対策に大きく分別されます。
先日の「DreamHack Austin」は、「十分な数の配信管理者が用意されていた」にもかかわらず、人種差別のハラスメントの噴出に対応できませんでした。
この事件を鑑みても、現状のe-Sportsにおけるハラスメントの有事対策には限界があると感じざるを得ません。
やはり、未然対策が圧倒的に不足しているのだと思われます。
e-Sportsに参加する全ての人にハラスメントを発しないよう働きかけて、気軽にハラスメントが行われてしまう今の環境を少しでも改正していく必要があります。
主な未然対策は、TerrenceM選手も示唆していた、コミュニティ内を占める「ハラスメント反対派」の割合を増やすことです。
ハラスメントの害悪を広く認識させて、それが否定されることが当たり前という風潮を作るのです。
ハラスメントを楽しむ層の発言力が弱まるほど、加速度的にハラスメントの出現率が減少することになります。
世界的に普及しているスポーツでは、このような未然対策はトップ・シーンから活発に行われています。
急成長して世界的に普及したe-Sportsは、急成長であるがゆえに、規模に見合うほどの未然対策がまだ実施されていません。
トップ・シーンには参加していない、私たち大多数の一般プレイヤーも、ハラスメントの未然対策に着手できます。
この連載のように、ハラスメントによる弊害を訴えたり、ハラスメントを断固として否定する姿勢を公に表明することです。
あいまいな態度をとらず、ハラスメントを許さないという雰囲気を私たち自身で満たすことも、ハラスメントの出現率の減少につながります。
サッカー界では2014年に、黒人選手に向けてバナナが投げ込まれるという、観客による人種差別行為がスペインで発生した。
すると世界中のトップ・プレイヤーたちが一斉に、バナナを食べる写真をSNSに投稿し、「僕らもバナナを食べる同じ猿だ」という表現で人種差別反対を広く呼びかけた。
クラブ側は犯人を特定して無期限のスタジアム入場禁止の処分を下し、今後も同様の行為は許さないという姿勢を強く打ち出した。
ハラスメントとの誤った向き合い方が是正されることも、併せて必要だと思います。
独自の社会が育まれるゲームやスポーツのコミュニティにおいては、コミュニティ独自の判断が正当化されることがあります。
こうした閉鎖的な環境では、ハラスメントなどの非常識な行為が、常識的な行為と捉えられることがあります。
あるゲームのコミュニティでは、「女性の配信者は性的ハラスメントの発言と付き合うことも仕事の一つ」ということが広く認識されているそうです。
スポーツでは、「選手は暴言や体罰などを耐えることで精神力が成長する」という古い認識が、今なお少なからず存在しています。
これらは是正されるべき、誤った認識です。
e-Sportsおよびスポーツの環境は、社会的に特別な環境ではなく、一般社会と同様にハラスメントが許容される場ではありません。
選手の精神力を評価する際には、ハラスメントに抵抗する強さは無関係な要素として評価せねばなりません。
ハラスメントの抵抗力を評価してしまうと、ハラスメントに抵抗できない者に問題があるという誤解が生じることになります。
「ハラスメントに耐え忍ぶことができる選手」は、「精神力が強い選手」と同義ではありません。
「ハラスメント被害を簡単に訴える選手」は、「精神力が弱い選手」と同義ではありません。
選手の保護や競技人口の拡大のためにも、選手のハラスメントを拒む意思表示は全面的に肯定されるべきです。
続く第6回では、ハラスメントがハースストーンでも重大な違反行為である旨について掲載します。
- 立教大学学術リポジトリ – スポーツにおけるハラスメント防止―いかに気持ちよくスポーツに打ち込めるか―