ヒロイック版の酒場の喧嘩は、発表された時点で大きなインパクトを残しました。
その最たる要因は、収支のスケールが莫大であることです。
1回の入場料が10ドル、または1,200円、あるいは1,000ゴールドという高額に設定されていることが、まず人々を驚かせました。
そして、最上級の報酬が「50パック! 1,000ゴールド! ゴールデン・レジェンド3枚!」と破格であることが大々的にアピールされました。
さらには、「0勝で終わった際の報酬がカードパック1個だけ」という、敗者に対して容赦がないことが判明すると、いよいよ話題が沸騰しました。
さっそく、公式に発表された「ヒロイック酒場の喧嘩」の報酬一覧表を以下に掲載します。
魔素(Arcane Dust)とゴールドはおおよその値です。
勝敗 | パック | 魔素 | ゴールド | ゴールデン レジェンド |
---|---|---|---|---|
0勝3敗 | 1 | |||
1勝3敗 | 2 | |||
2勝3敗 | 3 | |||
3勝3敗 | 4 | 120 | 120 | |
4勝3敗 | 5 | 190 | 190 | |
5勝3敗 | 6 | 220 | 220 | |
6勝3敗 | 7 | 250 | 250 | |
7勝3敗 | 8 | 280 | 280 | |
8勝3敗 | 9 | 310 | 310 | |
9勝3敗 | 16 | 400 | 400 | |
10勝3敗 | 16 | 400 | 400 | 1 |
11勝3敗 | 16 | 480 | 480 | 2 |
12勝0~2敗 | 50 | 1,100 | 1,100 | 3 |
10ドルや1,000ゴールドも払って、魔素およびゴールドが与えられず、カードパック1~3個だけを持ち帰る結果となります。
続いて、報酬の合計値をゴールド単位で算出した表を掲載します。
報酬となるカードパック1個を100ゴールド、魔素100を100ゴールド、ゴールデン・レジェンドを1,600ゴールド(=1,600魔素)にそれぞれ換算しています。
※補足 … 「魔素100は、およそ100ゴールドの価値に等しい」という認識が、現在のコミュニティの間で広まっているようです。
検証例 → 「Average dust per pack test: 470 packs analysed」
勝敗 | パック | 魔素 | ゴールド | ゴールデン レジェンド | 報酬合計 | 収支 |
---|---|---|---|---|---|---|
0勝3敗 | 100 G | 0 G | 0 G | 0 G | 100 G | -900 G |
1勝3敗 | 200 G | 0 G | 0 G | 0 G | 200 G | -800 G |
2勝3敗 | 300 G | 0 G | 0 G | 0 G | 300 G | -700 G |
3勝3敗 | 400 G | 120 G | 120 G | 0 G | 640 G | -360 G |
4勝3敗 | 500 G | 190 G | 190 G | 0 G | 880 G | -120 G |
5勝3敗 | 600 G | 220 G | 220 G | 0 G | 1,040 G | +40 G |
6勝3敗 | 700 G | 250 G | 250 G | 0 G | 1,200 G | +200 G |
7勝3敗 | 800 G | 280 G | 280 G | 0 G | 1,360 G | +360 G |
8勝3敗 | 900 G | 310 G | 310 G | 0 G | 1,520 G | +520 G |
9勝3敗 | 1,600 G | 400 G | 400 G | 0 G | 2,400 G | +1,400 G |
10勝3敗 | 1,600 G | 400 G | 400 G | 1,600 G | 4,000 G | +3,000 G |
11勝3敗 | 1,600 G | 480 G | 480 G | 3,200 G | 5,760 G | +4,760 G |
12勝0~2敗 | 5,000 G | 1,100 G | 1,100 G | 4,800 G | 12,000 G | +11,000 G |
1,000ゴールドを入場料の支払いにあてた際の収支も、併せて掲載しています。
最初の注目点は損益分岐点です。
いわゆる「収支がトントン」になる、黒字化するポイントが「5勝」であることです。闘技場では、勝率が5割となる「3勝3敗」に到達すれば、おおよそ入場料150ゴールドの「元が取れる」だけの報酬を得ます。
それに対してヒロイックの喧嘩は、勝率5割の「3勝3敗」では大赤字を免れる程度の赤字のままで、勝率2/3の「6勝3敗」まで到達せねば儲けを実感できない配当システムになっています。
また、2勝と3勝の間に、8勝と9勝の間に、それぞれ報酬の量の大きな格差が生じていることも注目されます。
3勝で終えると、なおも赤字ではありますが、3勝に到達する、しないでは損する度合いが多分に異なります。
8勝と9勝の間には、約3倍もの利益の格差があります。
さらに9勝以降は、1勝ごとに報酬の量が跳ね上がっていき、11勝と12勝の間には総計6,000ゴールド以上もの収入差が生じています。
ヒロイックの喧嘩の報酬システムは、構造的には闘技場と全く同じです。
収入と支出の量が異なるだけです。
したがって、勝率を50%と仮定した際の、闘技場における各勝数の到達確率の一覧を、そのままヒロイックの喧嘩に流用することができます。
勝敗 | 確率 | 確率(減算) | 報酬 | 収支 |
---|---|---|---|---|
0勝3敗 | 12.500 % | 100.000 % | 100 G | -900 G |
1勝3敗 | 18.750 % | 87.500 % | 200 G | -800 G |
2勝3敗 | 18.750 % | 68.750 % | 300 G | -700 G |
3勝3敗 | 15.625 % | 50.000 % | 640 G | -360 G |
4勝3敗 | 11.719 % | 34.375 % | 880 G | -120 G |
5勝3敗 | 8.203 % | 22.656 % | 1,040 G | +40 G |
6勝3敗 | 5.469 % | 14.453 % | 1,200 G | +200 G |
7勝3敗 | 3.516 % | 8.984 % | 1,360 G | +360 G |
8勝3敗 | 2.197 % | 5.468 % | 1,520 G | +520 G |
9勝3敗 | 1.343 % | 3.271 % | 2,400 G | +1,400 G |
10勝3敗 | 0.806 % | 1.928 % | 4,000 G | +3,000 G |
11勝3敗 | 0.476 % | 1.122 % | 5,760 G | +4,760 G |
12勝0~2敗 | 0.646 % | 0.646 % | 12,000 G | +11,000 G |
「減算」と記されている列の数値は、その勝数以上に到達する確率を表しています。
例えば、「0勝以上」は参加した全員が該当することから100%になります。
「3勝以上」となる確率は50%であり、黒字で終えることになる「5勝以上」に到達するのは全体の22.7%だけであることが読み取れます。
ギャンブルの世界では、「報酬額 × その報酬を得る結果となる確率」を、全ての報酬パターンにおいて算出し、合計した値を期待値と呼びます。
ヒロイックの喧嘩では、「0勝3敗の報酬額 100G × 0勝3敗となる確率 12.5%」「1勝3敗の報酬額 200G × 1勝3敗となる確率 18.75%」………「12勝の報酬額 12,000G × 12勝に到達する確率 0.646%」の13パターンを合計した値が711ゴールドとなります。
したがって、711ゴールドがヒロイックの喧嘩の期待値です。
期待値とは、1回のギャンブルの試行につき、どれほどの収入を得ることが見込まれるかを表す数値です。 期待値が711ゴールドであるヒロイックの喧嘩は、1回の入場ごとに、平均で711ゴールドを得る計算になります(勝率を50%と仮定した場合)。
平均の報酬額が100~300ゴールドという期間が長く続くこともあるでしょうが、低確率で起こる12,000ゴールド等の高額報酬が発生すると、平均の報酬額は大きく伸びます。
何千回、何万回とヒロイックの喧嘩の試行を繰り返すと、平均の報酬額は711ゴールドに限りなく近づくことになります。
1回の入場料が1,000ゴールドであるため、勝率が常に50%であれば、確実に損をする配当システムであると断定されます。
統計をとると、1回入場するたびに289ゴールドを損する計算になります。
仮に自分の勝率が高くて得をするとしても、その分誰かが勝率を落として損を拡大させるため、プレイヤー全体の損する割合に変化は生じません。
ヒロイックの喧嘩は、胴元である運営側が常に儲かるギャンブルのようなコンテンツです。
「経験者たちが溜め込んだゴールドをさらいに来た」という表現によっても評されています。
ギャンブルの世界では、賭け金に対する期待値の割合を還元率と呼びます。
1,000円を賭けると期待値が800円になるギャンブルの還元率は、80%です。
全プレイヤーの賭け金総額の8割をプレイヤーの配当として還元し、残り2割を胴元の利益とします。
代表的なギャンブルの還元率を参考までに掲載します。
- 海外のカジノ … 90~99%
- パチンコ・パチスロ … 80~90%
- 競馬 ・競輪・競艇 … 70~80%
- サッカーくじ(toto) … 50%
- 宝くじ・ロト6 … 45%
ヒロイックの喧嘩は、賭け金1,000ゴールドに対して期待値が711ゴールドであると言えるので、還元率は71.1%となります。
公営ギャンブルである競馬等と同じか、それ以下の割合の配当が用意されるコンテンツです。
海外では、カジノを筆頭とした各種ギャンブルの還元率が総じて90%を超すため、この還元率の低さは非難の対象になっている模様です。
「酒場の喧嘩の真剣勝負を楽しむ場である」「ギャンブルは負けて損することを承知の上で楽しむ場である」などといった擁護する意見も見受けられますが、それにしてもプレイヤー側が損する割合が大き過ぎる印象であることは否めません。
当サイトは、発足時から「未経験者でもハースストーンを楽しく、気軽に、安全にプレイしていただく」ことを第一に考えています。
その私が、このヒロイックの喧嘩の詳細を知った際に、真っ先に伝えたいと感じたのは「未経験者や初心者は軽々しくこのコンテンツをプレイすべきでない」ということです。
その理由を以下に掲載します。
そもそもヒロイックの喧嘩は、「経験者を奮い起こすための新コンテンツ」「自信がなければ他人のプレイを観戦するにとどめよう」など、公式のプロモーションからして「初心者お断り」の雰囲気を漂わせている対戦モードです。
よって、未経験に近い初心者が対戦相手になることは、当然ながら皆無に等しくなることでしょう。
通常版の酒場の喧嘩や、誰もが無料の入場権を1回もらえる闘技場では、経験が浅いプレイヤーたちも大勢参加してきます。
それらとは異なり、ヒロイックの喧嘩では、常に対戦相手が百戦錬磨の経験者たちであることを銘じる必要があります。
「ランクが15や10でなければ、やめておいた方がいい」という意見を複数見かけましたが、私はさらにハードルを高め、「ランキング戦で過去に一度もランク5に到達したことがなければ推奨しない」と考えています。
そうでなければ、黒字化する5勝到達は望むべくもなく、大損となる負け越しを繰り返す結果になると思われるからです。
闘技場との大きな違いは、用いるデッキを自分で一から組み上げる点です。
デッキを組む際には、デッキの構築能力や、カード同士の相互作用に関する知識が必要になります。
初心者にとっては大きなハンデとなる要素です。
ハースストーンの情報サイト等に掲載されたデッキをそのまま用いるのも一つの解決手段かもしれませんが、それにしても条件は五分どまりです。
闘技場のように、「相手側がデッキを組む際に提示されたカードが弱いカードばかりである」という幸運は発生しません。
通常版の酒場の喧嘩のように、「相手側のデッキに弱いカードばかりがランダムに組み入れられる」という幸運も発生しません。
上述したデッキの構築とも関連することですが、カードが不足していてデッキを満足に組めなければ、それがそのままハンデに直結します。
低ランク戦においては、カード資産が少ない者同士が対戦するケースも多々あることでしょう。
しかしながら、初戦から最終戦まで熟練者と争うヒロイックの喧嘩においては、デッキを満足に組めるだけのカードを所有していなければ、対等の対戦条件が与えられません。
1回の入場料が1,200円だの1,000ゴールドだのは、経験者向けであっても高すぎると誰もが感じています。
気軽に支出できない初心者にとっては、なおさらのことです。
その見返りが、支出額のわずか1~3割相当になるというリスクも多分にあることが判明しています。
高額でありながら、経験者ですら損をする確率の方が高いコンテンツなのです。
ヒロイックの喧嘩における「5勝3敗」の報酬とほぼ同等の内容を、一瞬で入手できます。
未経験者や初心者の方にとっては、そちらの方がよほど健全な消費行動だと思います。
ヒロイックの喧嘩は、コミュニティに大きなインパクトを与えることには成功した模様です。
賛否を含めて、様々な意見が活発に交わされています。
とにかく、報酬に関する話題が目立ちます。
「50パック!」などという、極小の確率でしか発生しない派手な報酬の売り文句に惑わされず、損する可能性が高いギャンブルであることを前提にして、冷静に議論しようとする呼びかけには大いに賛同します。
単純に「デッキを構築する『ガチ』の喧嘩が楽しみ」という意見がある一方で、「一週間でも通常版の喧嘩がお休みになるのは寂しい」という意見もあります。
当サイトに対して、投稿内容に関する感想やハースストーンに関する建設的な意見を、いつもお寄せいただいている方がいます。
その方が、このたび当サイト宛に「ヒロイック酒場の喧嘩」に関する所感を送信されました。
それを一字一句編集することなく、そのまま以下に転載させていただきます。
新モードヒロイック酒場についてですが、1000Gで入場しても1パックしか得られないかもしれないとなると、かなりギャンブル性が高いですね。
特にHearthstoneでは、どれだけ強いと思われるデッキを組んでもマッチングの相性によっては2連敗3連敗というのはよくある話ですし..。
新モードとして設置される分には一定の需要はありそうですし良いと思うのですが、通常の酒場の喧嘩と入れ替わりで設置されるというのはとても残念です。
自分は毎週酒場の喧嘩をとても楽しみにしているので..。
試験的な意図もあるとの事なので、今後このヒロイック酒場がどのような展開になっていくのかわかりませんが、皆が納得するような丁度良い形で落ち着いてくれればありがたいですね。
世界中のハースストーン・プレイヤーが感じた第一印象を、過不足なくまとめた内容の文章だと思います。