古代戦争の終焉から数千年後に、伝説の魔導師メートルが記した数々の古文書が発見されました。
彼自身が持っていた知恵と経験を、後世の魔導師たちへ伝えるために書き残したものと目されています。
修行中の魔法使いたちにとっては革新的にも捉えられる魔術の活用法が満載されていて、彼らはメートルの古文書の内容を熱心に読みあさりました――が、誰ひとりとして、そこからアルネスの存在に気づくことがありませんでした。
危険を伴うゆえに明確には記載されていませんでしたが、メートルの古文書には確かに、彼が何かから莫大なエネルギーを吸い出して魔力を増幅させていた旨が暗に示されていました。
そのことに気付いた唯一の人物が、当時のアゼロスにおける最高峰の魔導師であったエイグウィン(Aegwynn)です。
エイグウィンは、悪魔の襲来に対抗するための手段として特別に育成された「ティリスファルのガーディアン = Guardian of Tirisfal」であり、アゼロスの有事の際には守護者となるべく、魔導師としての英才教育を受けていました。
彼女は大魔導師であるがゆえに、大魔導師メートルが意図した言い伝えを、古文書から完璧に読み解くことができたのです。
何かしらのアーティファクトが存在するはずだと、他の修行中の魔法使いたちに先駆けて察知したエイグウィンは、果たしてメートルが扱っていた古代の杖――アルネス――を発見するに至ります。
さらには、メートルが秘密裏に隠して封印していた古文書も新たに発見し、そこからアルネスの特徴や、アルネスからアーケイン・パワーを引き出す奥義も会得しました。
メートルが古文書で解説した手法をさらに発展させ、アルネスの意思に自分の意思を結びつけてアルネスを直接的に解放すれば、対悪魔の最終兵器にもなり得る強大なリソース源として利用できるとエイグウィンは考えました。
そして彼女はアルネスを使いこなすべく、これを「調教」する年月を過ごしました。
自らの意思を征服しようとするエイグウィンに対して、アルネスは全力で抵抗しました。
さすがのエイグウィンはアルネスを導き出すことを容易に実現してみせたものの、そこからアルネスを指示どおりに従わせることができず、アルネスは持ち主である彼女の魔法の使用を阻害することしか行いませんでした。
何年も「調教」に時間を費やした末に、ようやくエイグウィンはアルネスの意思を制御するに至ったと確信しました――が、悪魔のサーゲラス将軍との対峙という肝心要(かんじんかなめ)の場面で高らかにアルネスを掲げるも、やはりアルネスは彼女による征服に抵抗していて、何の効果も発動されることがありませんでした。
ここでとうとうアルネスを諦めて捨て置いたエイグウィンは、代わりにガーディアンの大杖アティシュを召喚し、その魔力によってサーゲラス(実はその仮の姿)を滅ぼすことに成功しました。
ことごとくエイグウィンの指示に背いたアルネスでしたが、一つだけ彼女の大きな助力となった場面があります。
エイグウィンは、自分をガーディアンとして育てたティリスファル評議会の強権的な姿勢に疑問を持ち始め、忠誠をなくして失踪すると、評議会の追手から逃れるための拠点を必要としました。
その際に彼女がアルネスの膨大なエネルギーを用いて、天高くまでそびえるような塔を城塞として建設したという記録が残されています。
ここでアルネスのエネルギーの発動がどのようにして成し遂げられたのかは判明していませんが、とにかく、後にメディヴが支配して廃城と化したこのカラザン――ハースストーンのアドベンチャー「ワン・ナイト・イン・カラザン」の舞台――は、エイグウィンとアルネスの力によって建てられたのです。
それからしばらくして、出生前の胎児の状態から悪魔の呪いを受けていたメディヴが、そうとは誰にも気付かれないままエイグウィンの息子として出産されて、彼女に続く「ティリスファルのガーディアン」の後継者として誕生しました。
メディヴはアゼロスを守護する存在でありながら、成人後に呪いによって悪魔に操られ、他の惑星の大陸とつながるポータルを開き、そこで同じく悪魔の手先となっていたオークの軍団をアゼロスに呼び込んでしまいました。
すべてはメディヴに憑依(ひょうい)した悪魔のサーゲラス将軍のしわざであると知ったエイグウィンは、息子を害することになっても、彼を乗っ取るサーゲラスを倒そうとしました。
サーゲラスがガーディアンのメディヴの魔力を駆使しても、ガーディアンとしての経験が豊富なエイグウィンには歯が立たず、不利を認めるとメディヴは彼女の前から姿を消して逃走しました。
やがてメディヴは、彼の弟子であったカドガーと、彼の親友であったローサー卿によって討ち取られました。
内心ではメディヴに過酷な運命を背負わせてしまったことを苦慮していたエイグウィンは、最愛の息子の死を伝え聞いて悲しむも、彼が闇から解放されたことに対しては少なからぬ安堵感を抱きました。
再び隠遁(いんとん)生活に戻り、アゼロスの社会から姿を消そうとした際に、エイグウィンは魔法都市ダラランにアルネスの管理を委託しました。
半端な魔導師が軽々しくアルネスのエネルギーを扱おうとする危険が生じないように、ダラランのキリン・トア評議会――メイジのエリート集団――がアルネスを厳重に管理することになったのです。
さらに年月が経ち、エイグウィンも死去した後に、彼女が封印を依頼したアルネスを扱えるメイジ――「World of Warcraft: Legion」におけるメイジ・クラスのプレイヤー――が現れました。
伝説の大魔導師メートルが残した古文書の指示に従い、伝説の大魔導師エイグウィンの手法を再現しようとするそのメイジに対してアルネスは、かつて自分を所有していた二人の大魔導師に到底及ばない「子ども」のような存在だと見なしたものの、悪魔の大軍団が襲来する未曾有(みぞう)の危機的状況に際して自分の力を貸すことを決めました。
アルネスは終始、装備者であるプレイヤーを「子ども」扱いするような表現でささやき続けますが、対悪魔の切り札となるアーティファクト武器の一つとして、自身が保有している膨大なアーケインの力を供給しています。
なお、アルネスはエイグウィンの亡霊と対面すると、最も畏怖した所有者による「調教」の日々を思い出して震え上がりますが、彼女が亡霊の状態であることに気付くと安心する様子を見せます。
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