特別コラム #2
魔法都市ダラランを拠点とする、上級魔術師の集団のキリン・トア(Kirin Tor)は、世界平和の維持に役立てるために、アゼロスにおける負の歴史の実態を調査していました。
その調査対象の一つに、マルフュリオンによって夢の世界で1万年以上封印された、暴徒化したウォーゲンたちも含まれていました。
ウォーゲン種族の実態がキリン・トアの組織内に知れ渡ると、これは手がつけられなくなる恐れがある程の危険な群れであると判断されました。
眠りについたままのウォーゲンたちは、その存在が認識されるも触れられることなく、そのままの状態で放置され続けたのです。
このウォーゲンに関する情報が共有されてから少し経った後の、悪魔の再襲来による第3次大戦がぼっ発する直前の時期のことです。
キリン・トア所属の大魔術師アルガル(Archmage Arugal)が、彼の親友であるゲン・グレイメイン(Genn Greymane)から救援の要請を受けました。
ローデロンの王子アーサスがリッチキングに成り果ててしまったことで、彼が率いるアンデッドのスコージ軍による侵攻が勢いを増していたのです。
グレイメインが統治するギルニーアス地方にもスコージ軍が押し寄せていて、彼はたまらずアルガルに助けを求めたという訳です。
――ここで、グレイメインが統治するギルニーアス王国(Kingdom of Gilneas)について説明しましょう。
ギルニーアス王国は、ローデロン地方の最南西部に位置する、狩猟文化が盛んな国でした。
以前にオークの襲来によって大損害を被ったアゼロスのヒューマン種族がアライアンス陣営を組織すると、そのアライアンス陣営の根幹を成す七大王国(Seven Kingdoms)の一つにギルニーアスは数えられました。
やがてアライアンス陣営はオークへの復讐を果たす第2時大戦を起こすことになりましたが、自国の軍だけでも十分に脅威に対抗できると確信していたギルニーアスのグレイメイン国王は、その参戦に乗り気ではありませんでした。
ただ、彼は他国との貿易関係は継続したかったので、しぶしぶ援軍を部分的に送るなどしてアライアンス連合軍に名を連ね、その大戦の勝利を少しだけアシストしました。
勝利後には、オークの奴隷を収容する施設の維持費をアライアンス参加国が負担することに強く反対し、ギルニーアスはアライアンス連合を脱退しました。
そして、そう遠くない場所に建設されたオーク収容所のトラブルに巻き込まれないように、グレイメインはギルニーアスという国をアゼロスの社会から完全にシャットアウトさせる決断を下しました。
途方もない高さの防壁をギルニーアス北部の国境沿いに隅々まで築き上げて、何者も壁の内外の往来が一切できなくなるようにして、ギルニーアスを隔離させたのです。
同国の象徴にもなった「グレイメインの壁 = Greymane Wall」によって遮断され、鎖国の道を突き進んだギルニーアスは、しばらく他国からはその様子が不明な状態となりました。
結局はこの壁が、大量発生したスコージ軍のギルニーアス侵入を阻んだのですが、さすがに持ちこたえられないと判断したグレイメイン国王は、大魔術師アルガルに支援を願いました。
所在する魔法都市ダラランがスコージの攻撃にさらされたことを目の当たりにしてきたアルガルは、半端ではない憎しみをスコージに抱いていて、グレイメインが望むスコージの撃退を進んで引き受けました。
どうしてもスコージ軍を破滅に導きたいアルガルは、最近に発覚して口外が固く禁じられていた殺りく集団のウォーゲンの存在を暴露してしまい、グレイメインの同意のもとで、長き眠りについていたウォーゲンたちを覚醒させて呼び寄せたのです。
先の調査結果の通りに凶暴かつ強じんであったウォーゲンは、果たしてスコージの群れをこともなげに粉砕し、アルガルの期待通りの活躍を見せました。
しかし、大昔のサテュロス戦争と同じ事件が、やはりここでも起こってしまいました。
スコージを倒し尽くして攻撃対象がいなくなると、ウォーゲンは矛先を味方に向けて、ギルニーアスの軍団を襲うようになったのです。
襲われて倒れた軍団兵が次々とウォーゲンの呪いに感染し、新たなウォーゲンが増殖し続けるという地獄絵図が、1万年のときを経て再現されました。
もう何年も港すら閉ざされて完全鎖国状態の中にあったギルニーアスの人々は、誰も通行することができない壁の内部で閉じ込められたまま脱出することもできず、他国に知られることなくウォーゲンの大量発生の災いと直面しました。
ギルニーアス中にウォーゲンの呪いをまん延させる張本人となった大魔術師アルガルは、この事件によって果てしない罪悪感に苛まれ(さいなまれ)、ついには狂気に陥りました。
そして、罪滅ぼしの意図もあったのか、ウォーゲンに変貌してしまった者たちを手なづけて、彼らの活動を支援するウォーゲン種族のカルト集団を組織したのです。
アルガルは、ウォーゲンたちが占拠したギルニーアスの貴族の砦に住み着き、ウォーゲンの群れをそこから指導して、憎きアンデッド種族へ無差別に攻撃を仕掛け続けるようになりました。
この振る舞いに対して激怒した、シルヴァナス・ウィンドランナー率いるフォーセイクン――リッチキングの束縛から解放されたアンデッド軍――は、総力を上げてアルガルおよびウォーゲンの討伐に乗り出しました。
ホード陣営のプレイヤーは、フォーセイクンの依頼によって、ウォーゲンが占拠した「シャドウファングの砦 = Shadowfang Keep」に潜入し、そのダンジョンの最終ボスであるアルガルの抹殺を果たすことになります。