ドラエナ惑星の歴史上において唐突に出現したファラロン地方には、悪魔の追跡から逃れてきたドラナイ(Draenei)種族が移り住むようになりました。
悪魔の焦熱の軍団(Burning Legion)はそのドラナイを追う過程で、同じドラエナ大陸に住んでいたオーク種族に目をつけて、その中で悪魔の強大な力を欲する野心家グルダンと接触し、彼を悪魔の手先にしてオークの支配の足がかりとしました。
そして多数のオークがグルダンの導きによって悪魔の血を飲まされると、彼らは理性を失い、凶暴性と残虐性をむき出しにしました。
それはまさに悪魔が配下として求めていた素質であり、後に悪魔のアゼロス侵攻の先発隊にも任命されたオークたちは、ホード軍と呼ばれ、まずはドラエナ大陸に存在するオーク以外の種族の虐殺に走りました。
ドラエナの中央大陸から離れていたファラロンでさえも、オーク・ホードは容赦なく侵略しました。
ファラロン侵略の任務にあたったキルログ・デッドアイ(Kilrogg Deadeye)とその部隊は、そこに移り住んでいたドラナイを始めとして、植物由来の大地から繁栄していた様々な半植物人種や植物の半神も含めて、ファラロンに住むあらゆる種族を皆殺しにしました。
悪魔の魔法のフェルを会得(えとく)していたオークのウォーロックたちは、孤島ゆえにフェルの腐敗から手付かずのままの状態であった、ファラロンの豊かな大自然に目を見張りました。
生命力が強いファラロンの自然から嬉々(きき)としてエネルギーを吸い上げたオークたちは、それをフェル魔法によって莫大な建造のパワーに変換し、現在のネザーストーム時代でも散見される強固な砦の数々を築き上げました。
やがてオーク・ホードは、悪魔の思惑どおりにダーク・ポータルを渡ってアゼロスへの侵攻を成功させたのですが、その後にアゼロスのアライアンス軍の反撃を受けて敗走しました。
ドラエナ大陸まで追撃してきたアライアンスの精鋭軍によって重傷を負わされた、当時のホードの総大将ネルズール(Ner’zhul)は、数人の手下と共にドラエナから脱出することを企て(くわだて)ました。
もうドラエナや同胞のオークたちを見捨ててまで、安息の地となる他の惑星へ逃げ込もうとした彼は、必死の思いで手当たり次第に転送用のポータルを開きまくったのです。
このポータルの乱発が異次元空間をも生じさせ、結果として捻じれし冥界(Twisting Nether)をドラエナ大陸の空間に呼び起こしてしまいました。
光と闇、秩序と混乱、生と死の世界がいびつに交錯し、その端々(はしばし)から多種多様な世界の姿の一端を覗かせる捻じれし冥界――
この次元の裂け目は、それが存在している場所の空間を切り裂き、吸収し、様相を歪めるエネルギーを放ち続けます。
ドラエナに突如として複数発生した捻じれし冥界は、ネルズールが去った後のドラエナの各地方を次々と壊滅させて、ドラエナという惑星を徐々に内部へ取り込みながら、これを退廃の地アウトランド(Outland)に変貌させてしまいました。
なお、捻じれし冥界は悪魔の棲み家(すみか)でもあったため、それと連結されたポータルに逃げ込んでしまったネルズールは、途端に悪魔の将軍と対面し、彼の逃亡に怒る悪魔の将軍によって八つ裂きにされます。
ドラエナの北東地方のファラロンでは、捻じれし冥界のエネルギーによって土壌の劣化が一気に進み、大地と岩盤は全面的に濃い紫に変色しました。
その紫色の大地はところどころで引き裂かれ、海中に沈没するどころか空中に漂うようになり、その空中では紫色の雷光や霞(かすみ)が発生し続けるようになりました。
植物が大繁殖していたとは思えぬほどに草木は枯れ果ててしまい、不毛となった地には魔力を帯びた生物のマナ・ワームやクリスタルの巨人などしか生存しませんでした。
捻じれし冥界の影響を多大に受けて、地獄のような嵐が常に吹きすさぶことから、いつしかファラロンはネザーストーム(Netherstorm)と呼ばれるようになりました。
悪夢にも映る環境のネザーストームであっても、そこに価値を見出して訪れてきた様々な種族が、それぞれ思惑を秘めていました――