見渡す限りに悲惨な光景であるネザーストームの危険性も意に介さずに、ここで複数の種族が小規模ながらも拠点を構えていました。
まずは何と言っても、ケルサス・サンストライダー(Kael’thas Sunstrider)を筆頭とするブラッド・エルフのサンフューリー(Sunfury)軍団です。
ブラッド・エルフ種族とその王子ケルサスは、ハイ・エルフと呼ばれていた時代に、二代目リッチキング――アーサス・メネシル――率いるアンデッド軍の急襲を受けて、王国を滅ぼされていました。
その際には、ハイ・エルフたちの魔力の源となった太陽の泉(Sunwell)も汚染されて使用不可能となったために、ケルサス王子は復讐を誓うも、まずは魔力の枯渇に苦しむエルフたちのために新たな魔力の供給源を探す旅に出ました。
エルフに対する十分な量の魔力の提供を申し出たイリダン・ストームレイジと同盟を組んだケルサスは、リッチキングとの復讐戦に敗れると、その戦いで重傷を負ったイリダンを抱えてアウトランドへ逃走しました。
ケルサスと生き残ったブラッド・エルフ軍はネザーストームまで放浪すると、そこで悪魔と対抗していた聖なる光ナール(Naaru)の前哨基地であったテンペスト・キープ(Tempest Keep)を強奪し、これを新たな本拠地としました。
イリダンから魔力の抽出方法を学んでいたケルサスは、ネザーストームで破壊的なエネルギーの放出を繰り返している捻じれし冥界のアーケイン・パワーを取り込み、これを配下のブラッド・エルフたちを満たすための魔力の源にすることを思い付きました。
その製造のためにケルサスたちが設営した、捻じれし冥界のパワーを吸引するための装置であるマナフォージ(Manaforges)が、ネザーストームには点在しています。
吸引された紫色のアーケイン・パワーは、マナフォージに連結されている透明のパイプを通して輸送され、メカナー(Mechanar)と呼ばれる工場――World of Warcraftでは5人制の小型ダンジョンの一つ――で魔力に変換された後にパッケージングされ、ネザーストームや故郷に残るブラッド・エルフに供給されるのです。
ドラエナ大陸を退廃させた元凶である捻じれし冥界自体が棲み家(すみか)であった、悪魔の焦熱の軍団は、そこからネザーストームに小隊を送り込みました。
ファラロン時代にここへ移住していたドラナイ種族が保管していた、神秘的な古代のアーティファクトの数々が、廃墟となったドラナイの都市や街に残されていたからです。
アーティファクトの力を活用できる悪魔は、今なお地表や地中に残るそれらを入手する目的で、このネザーストームに降り立ったという訳です。
悪魔がネザーストームに設営した拠点には、悪魔のフェル魔法を原動力とするメカニカルなユニットも複数編成され、フェルキャノンやフェル・リーヴァーといった兵器が配備されました。
ネザーストームにおいて、悪魔が占領したいドラナイ種族の廃墟を拠点としていたために、悪魔の軍団のメカニカル・ユニットからの攻撃を頻繁に受けていた勢力が、イセリアル(Ethereal)です。
イセリアルは、捻じれし冥界を起点として異次元空間を移り渡り、アーケインの魔力を秘めたアイテムを収集および売買する旅商人の一面を持ちます。
アウトランドに捻じれし冥界が発生したことを契機として、ネザーストームを含めたアウトランド全域にも活動の場を広めていました。
ネザーストームでは、アーケイン・シールドで覆われたエコ・ドームを展開して拠点の内部を外気から保護し、不毛の地ネザーストームの環境下では育ち得ない野生の動植物を多数保有して、ネザーストームで活動する他種族のオアシスとも言える空間を形成しました。
ネザーストームのイセリアルはこうして来客を招いたり、アゼロスの冒険者やケルサス率いるブラッド・エルフたちと取引しながら商売を進めました。
そして、イセリアルと同様に、このネザーストームの地をビジネスの発展の場として捉えた種族がいました――