連載第1回で記述したとおりに、ザンダラリはアゼロス史上最古の帝国であり、かつ太古の時代には唯一無二(ゆいいつむに)の帝国でした。
連載第2回で記述したアマニ、グルバシ、ドラッカリを築いたトロルたちも、元々はザンダラリ帝国に所属していました。
連載第3回では、そのザンダラリ帝国の近代歴史について解説します。
ザンダラリ帝国の評議会には知識と魔力が豊富な魔導師が大勢いて、その中でも預言者ズル(Zul)は霊力と求心力が最も高く、国王ラスタカンに常に帯同する帝国参謀長として仕えていました。
北方のドラッカリ帝国がリッチキングによって崩壊寸前まで至ると、ズルはドラッカリの拠点まで援軍として遠征し、崇拝するべき精霊の神ロアをいけにえにして、その儀式から強大なパワーを抽出することを指示します。
この冒とく的な一件によって、冷酷かつ野心あふれる気質を持つズルという存在が、アゼロスの他種族の各勢力に知れ渡ることになりました。
デスウィングがアゼロスに降臨する数年前のことです――
さすがの交信力を有する預言者ズルは、デスウィングがもたらす災厄を誰よりも早く予見し、ラスタカン王と評議会に対して「鎧のようなウロコをまとう巨大な竜が、世界を粉砕する未来を感知した――」と速報しました。
その数か月後には、旧神配下のナーガ種族が襲来するビジョンを捉えて、「帝国本土ザンダラー(Zandalar)島の周囲の海域も引き裂かれ、その割れ目からどう猛なヘビの軍団が押し寄せてくるだろう――」と助言を続けました。
それでもラスタカン王は動じなかったために、とうとうズルは泣き伏せながら「激しい地震と押し寄せる津波に見舞われる我らの黄金都市が、海底に沈みかねない事態が刻一刻と差し迫っている!」と叫んでまで、ザンダラリの首都の移転を強く訴えました。
内心では「ついにズルは狂気に陥ったか」と思い込んだ評議会のメンバーも彼を信用しなかったことから、果たして本当にデスウィングが降臨した際の地殻変動によって首都ズルダザー(Zuldazar)が沈没し始めると、未然に制御できたはずの大混乱がザンダラリ帝国全体に広まったのです。
ラスタカン王と帝国本部は暗愚(あんぐ)であると見限ったズルは、大災害が起こる前に、配下と海軍を引き連れてザンダラー島を脱出していました。
彼は、暗雲が漂うこの時世(じせい)において、トロルが偉大な種族として再びアゼロス全土を支配するためには、トロルの団結こそが必要であると悟ります。
そこで崩壊状態にあったアマニ帝国とグルバシ帝国の残党の有力者たちと接触し、ズル派のザンダラリ軍が力を貸すと約束することで、それぞれの帝国の再興が果たされました。
ロアさえ犠牲にしてしまう残虐性(ざんぎゃくせい)を持つズルの主導であるため、その再興も大きな危険性を伴いました。
新生のアマニ帝国はより凶暴さを増してエルフへの復讐とアゼロスの支配を誓い、新生のグルバシ帝国は禁制の神ハッカーを捕縛(ほばく)して力を抽出するという暴挙に出たのです。
すでにホード陣営に加盟していたヴォルジン率いるダークスピア部族のトロルたちは、このズル主導のトロル団結の誘いを拒んだばかりか、これらは世界の苦しみや紛争を助長する存在だと断定し、プレイヤーの冒険者たちと共にその新勢力の討伐を果たします。
トロルの統一と支配が一向に進まない現状にいら立つズルは、その原因が国王ラスタカンの弱小さにあると判断し、ザンダラリの初代の国王ダザー(Dazar)を蘇生して、彼を新生のザンダラリの王に据えようとするクーデターを企て(くわだて)ました。
さらにズルは、伝統的にトロルが崇拝する精霊の神ロアも強度が不十分であるとして、邪悪な第5の旧神グフーン(G’huun)こそが仕えるべき神だとみなして、それに置き換えるべくロアの魂を抽出して――かつてドラッカリ帝国でロアをいけにえにした蛮行と同様に――ロアの排除に取り掛かりました。
ラスタカンは危機一髪のところでズル軍による暗殺からどうにか脱出できましたが、ラスタカンと運命共同体であったロアの王レザン(Rezan)は、ラスタカンがズル軍へ反撃している最中にズルによって殺されてしまいました。
戦闘中に急に精霊力を失ってしまったラスタカンは、かねてよりザンダラリ国王専属のロアとなることを望んでいた死のロアのブワンサムディーと契約します。
ブワンサムディーをロアの最高位に任命することと引き換えに、彼の強力な精霊力を手にしたラスタカンは、旧神グフーンの封印を解こうとするズルの殺害を果たしました。
ズル「もう遅いぞ、ラスタカン――いでよミスラックス!」
ラスタカン「ブワンサムディー!――我と契約し、そなたの力を授けよ!」
ズル「ミスラックス、今すぐ封印を破壊するんだ!」
ズル「愚かな王よ――貴様は灰の帝国を長く統治することになるかも知れんな…」
ブワンサムディー「ご覧なさい陛下、おめでとう」
ブワンサムディー「王国は…、私たちのものだ――」
しかしながらグフーンの封印は解かれてしまい、その脅威を排除するべくプレイヤーの冒険者たちは大型ダンジョンのウルディア(Uldir)に侵入し、グルーンとアンデッド版のズルを討伐することになります。
ハースストーンの原作「World of Warcraft」では、現地時間の12月11日に最新のメジャー・パッチ「8.1.0: Tides of Vengeance」が搭載されます。
12月4日にリリースされたハースストーンの「天下一ヴドゥ祭」は、そのWoWのパッチ「8.1.0」のリリース日とタイミングをあらかじめ同調させるようにして、意図的に開発が進められていたものと目されています。
というのも、パッチ「8.1.0」がWoWに追加する主要コンテンツの一つに、ラスタカン王が最終ボスとなる大型ダンジョンが含まれているのです。
最新拡張セット「Battle for Azeroth」の到来後に、再びアライアンス陣営と激しく争うようになったホード陣営は、戦力の補強のためにザンダラリ帝国のトロルを招へいしています。
アライアンス陣営は、ホード陣営の主要な同盟国の一つとなったザンダラリを排除するべく、新たに追加される大型ダンジョン「Battle of Dazar’alor」においてザンダラリ国王のラスタカンの討伐を試みます。
また、「Battle for Azeroth」の目玉要素の一つである同盟種族(Allied Race)に関しても、パッチ「8.1.0」の適用時にザンダラリ・トロルが新たに追加されることによって、ホード陣営のプレイヤーはザンダラリ・トロル種族としてもプレイできるようになります。
そのパッチ「8.1.0」が適用される3日後には、ラスタカン王が主催するという設定である「天下一ヴドゥ祭」のソロ・アドベンチャー「喧嘩祭」も解禁されます。
ザンダラリのトロルに焦点をあてる今回のWoWとハースストーンの連携は、両作のファンを楽しませるキャンペーンとなっています。