とあるファーボルグの暴れぶりがひどいので狩ってほしい――
ヒーメットはエルフ族にそう依頼されていました。
魔族の影響をまともに浴びて凶暴化してしまったファーボルグ種族の退治の依頼は、当時は珍しいことではありませんでした。
アゼロス随一のハンティングの腕前と称されたヒーメットは、慣れた手練(てだれ)で今回も着実に対象のファーボルグを追跡し続けました。
気付けば、辺りは一面が雪景色――年間を通して寒冷である北地のウィンタースプリングまで彼はたどり着いていました。
ドワーフ族であるヒーメットは寒さに強く、さらには雪が積もる地面に足跡がくっきりと残るために、彼にとっては好条件がそろう狩猟環境でした。
この地でヒーメットはクリーディという名のハンターに出会い、名手ヒーメットを知るクリーディの仲間から、クリーディの狩猟グループに勧誘されました。
ヒーメットは、この場所の有益な経験則を得ることが依頼の達成に役立つと考え、お互いの目的の達成に協力することを条件にして、その誘いを受けました。
そしてすぐに、とても彼らとは行動を共にできないと感じたヒーメットは、クリーディのグループから抜けました。
クリーディたちは「狐狩り」を生業(なりわい)にしていると説明していましたが、それは表向きの話であり、実際には希少種や幼獣をも狩りの対象とする、狩猟道に背く賞金稼ぎの集団だったのです。
単独でのファーボルグ狩りを再開したヒーメットは、あるとき大型の猫系の獣に襲われました。
両者が対峙した末に、ヒーメットが発砲して獣に軽傷を負わすと、獣は突然ナイト・エルフ族の姿になりました。
獣に変身していたドルイドだったのです。
テリーナと名乗ったそのドルイドにヒーメットが事情を聞くと、彼女はクリーディ一たちに恨みがあり、ヒーメットが彼らの仲間のハンターであると誤解して奇襲したのだと説明しました。
テリーナは、長年にわたって家族のように生活を共にしてきたイシスという名のサーベル・タイガーを、高値で売れる希少種という理由で賞金稼ぎのクリーディに射殺されたことを明かしました。
そして、テリーナはバッグの中に忍ばせていた3匹のか弱い猫科の小動物を見せると、これらはイシスが殺害される直前に出産した子どもたちであるとテリーナは語りました。
サーベル・タイガーの子どもには成長するにつれて消失する独特の模様があり、悪趣味な収集家には大人のサーベル・タイガーよりも高値で引き取られるため、この子たちもまたクリーディ一派に狙われているとも彼女は打ち明けました。
テリーナがクリーディたちを襲う理由は、イシスが殺された復讐をすることと、イシスの子どもたちを保護することでした。
無害な獣を、無抵抗な獣を、私利私欲のために不当に殺める(あやめる)卑劣な狩猟に対して、信念をもって狩猟に携わるヒーメットは激昂(げきこう)しました。
クリーディ一派がテリーナたちを発見したのは、そのときのことでした――
3匹の幼獣ごと皆殺しにしようとしたクリーディたちから、テリーナとヒーメットはようやく逃げ切りましたが、テリーナは流れ弾に当たって瀕死の状態になってしまいました。
そして彼女が3匹のイシスの子どもをヒーメットに託して息絶えると、彼のハンティングの対象は依頼されていたファーボルグから悪党に変わり、彼の卓越したハンティング能力はクリーディたちへ振るわれることになりました。
熟練の手わざで次々と罠を作成しては設置し、茂みに隠れてスナイパーのように獲物を狙い続けるヒーメットは、イシスの子どもたちを追うクリーディの仲間を一人ずつ着実に仕留めていきました。
最も重い懲罰でもって処されなければならないクリーディに対しては、ヒーメット自らが引き寄せるおとりとなって、仕掛けてあった特製の罠へ巧みに誘導しました。
自分で解くことがかなわない罠にかかったクリーディは、何ごとかを叫び続けながら大木に吊り下げられて、もがくばかりとなりました。
そして、大木に縛られたままの状態で、恐怖におびえながら野生の獣たちに喰い殺される――そんなむごたらしい刑をクリーディに与えたヒーメットは、陰で様子をうかがいながら、意外な結末を目撃することになりました。
当初にヒーメットが依頼されて追っていた、凶暴化したファーボルグが、身動きできずに叫ぶばかりのクリーディを喰らい始めたのです。
第一の獲物が第二の獲物を血祭りに上げるという、何とも皮肉な光景を見届けた直後に、ヒーメットはその場で第一の獲物であったファーボルグを撃ち殺しました。
その後にイシスの子ども3匹とテリーナの亡きがらをテリーナの故郷まで届けた――という以上までの体験談を、ヒーメットはストームウィンドの酒場において、ある若いハンターの前で諭す(さとす)ように語りきりました。
「私はその日に『名誉ある狩猟』とは何であるかを学んだのだ」――ヒーメットはそう言いながら、その若いハンターが意気揚々と自慢げに持参してきた、彼が仕留めたという大虎の死体に視線を向けました。
「この虎の足首にはトラップにかけられた形跡が残っている――ということは、お前さんは金稼ぎのために、抵抗できなくなった獲物を意義もなく一方的に撃ち殺しただけなんだ」――ヒーメットは続けました。
「名誉を持って抗った(あらがった)獣と、名誉を捨てた臆病者が戦った狩猟だったんだ――
――狩猟のスリルなき狩猟には何の栄誉もなく、無抵抗な獣を狩って誇ることは恥であると銘じておくようにな」
「この獣にだって、相応の葬られ方があるだろうよ」
あ然とする若いハンターを差し置いて、彼に仕留められた大虎を抱え持ったヒーメットは、その大虎に名誉ある埋葬を施すべく酒場を後にして、嵐が過ぎ去った後の森林地帯へ向かいました。
<目次>
中立 | 霊の歌い手ウンブラ |
中立 | ヴォラックス |
中立 | 先遣隊長エリーズ |
中立 | ジャングルハンター・ヒーメット |
ヒーメット・ネッシングウェアリー――狩猟道を極めんとするアゼロス至高のハンター | |
中立 | オズラック |
ドルイド | ティランタス |
ドルイド | ジャングルの巨獣たち / 圧踏のバーナバス |
ハンター | 沼の王ドレッド |
ハンター | 沼地の女王 / クイーンカルナッサ |
メイジ | パイロス |
メイジ | ウェイゲートの開門 / 時間湾曲 |
パラディン | 太陽の番人タリム |
パラディン | 最後のカレイドサウルス / ガルヴァドン |
プリースト | 太陽の砕片ライラ |
プリースト | 目覚めよ創造主 / 希望の番人アマラ |
ローグ | 死体花シェラジン |
ローグ | 地底の大洞窟 / クリスタルコア |
シャーマン | 原始の王カリモス |
シャーマン | マーロック大連合 / メガフィン |
ウォーロック | クラッチマザー・ザヴァス |
ウォーロック | ラッカリの生贄 / 冥界のポータル |
ウォリアー | キングモッシュ |
ウォリアー | ファイアプルームの中心で / サルファラス |
特別編 | ジョージ・ハーバート・ドイルIV世 |
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