「World of Warcraft」におけるボルヴァー・フォードラゴンは、居住するストームウィンド王国において人々から敬意を抱かれている、人間種族のパラディンです。
同王国の重鎮の一人でもあり、ヴァリアン・リン国王がエドウィン・ヴァンクリーフ率いる盗賊団デファイアスによって拉致された際には、摂政(せっしょう)として政務を代行しながら王の捜索に尽力しました。
ヴァリアンの帰還後には、リッチキングが展開するアンデッドのスコージ軍を討伐するために、アライアンス陣営の遠征隊の司令官としてノースレンド大陸に赴きます。
普段は敵対関係にあるアライアンス陣営とホード陣営が結託してまで、リッチキングの蛮行を世界中が阻止しようとしていました。
リッチキングの本拠地であるアイスクラウン城砦の正門まで押し寄せたアライアンスとホードの連合軍は、スコージの大軍と、魔剣フロストモーンを振りかざすリッチキング張本人と対峙しました。
すると、その戦場は突如として、まがまがしい緑色の致死性の毒で満たされました。
「我らが忘れ去られし存在だと思っていたか?――フォーセイクンの恐るべき復讐を、今ここでご覧に入れよう!」
「スコージに死を!――生きとし生けるものに死を!」
それは、ホード陣営側に参加していたアンデッドのアルケミストである、プトレス(Putress)の叫び声でした。
彼は、かつてリッチキングに蘇生されてスコージとなるものの、その後にリッチキングの影響から抜け出て自我を取り戻したフォーセイクンの一人であり、この機会にリッチキングに対する復讐を成し遂げようとしていたのです。
プトレスが用意していた数々の投てき用の戦車から放たれた毒物は、アンデッドであるフォーセイクンが改良したことによって、通常の毒が効かないアンデッドのスコージ軍に対しても死をもたらす特性を有していました。
あまりの毒性の強さにリッチキングが撤退を余儀なくされた後に、戦場に残されていたスコージ軍はもちろんのこと、アライアンス軍とホード軍も無差別にプトレスのエゴイスティックな復讐に巻き込まれ、毒の中で次々と息絶えました。
アライアンス軍の司令官であったボルヴァー・フォードラゴンも、その犠牲となった一人です。
不浄なるものを焼却して新たな生命の息吹を与えることができる、アレクストラーザ率いるレッド・ドラゴンは、プトレスがまん延させた毒がはびこっている戦場地帯をブレスによって洗浄しました。
毒の中で倒れていたボルヴァーは、その業火によって全身が黒焦げとなる姿に成り果てるも、復活を遂げることになりました。
ただ、復活した場所がリッチキングの本拠地の目の前であったためか、彼はスコージ軍によって捕獲されてしまいました。
アライアンス軍の司令官を務めるほどの人材であるボルヴァーを、ぜひとも配下に置きたいリッチキングは、ボルヴァーに拷問の責め苦を与えて、強制的にスコージ軍の傘下に加わるよう迫りました。
「――何と素晴らしい抵抗力だ」
「うああああああ!!」
「私は…、私は…、お前などを恐れはしない!」
「――ホード側の司令官は、デスブリンガー・サウルファングとして余の手に落ちたのだ…」
「アライアンスの司令官である貴様も、もうじき――」
しかしながら、強じんな精神力によってリッチキングの拷問を耐え切ったボルヴァーは、とうとう最後までリッチキングに投降することがありませんでした。
そしてボルヴァーは、リッチキングが鎮座する凍てつく玉座の上方において、四肢を鎖で縛られる捕虜となりました。
ティリオン・フォードリングとプレイヤーの冒険者たちがリッチキングの討伐を果たすと、ボルヴァーは解放されました。
その直後に、魔剣フロストモーンの封印から解かれたリッチキングの父の魂が、リッチキングが不在になるとスコージ軍は制御が効かなくなって脅威を増すと忠告しました。
常に誰かが犠牲となってリッチキングの代行者とならねばならない――そう悟ったティリオンは、自身がその犠牲となるべく、リッチキングの兜を手に取りました。
――そのときのことです。
拷問によって全身不随となっていたボルヴァーが、ティリオンに向かって呼びかけました。
「ティリオン…、いま君は、恐るべき運命をその両手から受け入れようとしている――だが、それは君の役割ではない」
「ボルヴァー…――おお、何という姿に…」
「ドラゴンの業火が…、このように私の運命を決したのだ…――この世界に生きる誰もが、もう…、私の苦痛を和らげることはできまい」
「…だからティリオン、その兜を…、私の頭にかぶせるのだ――私がこのまま永遠に、邪悪な城砦の囚人となるべきなのだ…!」
「それは出来ない!――友よ…、私には、出来ない…」
「やるんだティリオン!!――君と、その勇敢な冒険者たちには、それぞれ果たすべき役割が残されているはずだ!」
「この役割を果たすべき存在は…、私なのだ――!」
しばし目を閉じていたティリオンは、やがて意を決したようにボルヴァーの方へ歩み寄り、つらく悲しい思いを隠すことなく表情に出しながら、リッチキングの兜をそっとボルヴァーの頭にかぶせたのでした。
「友よ…、そなたの存在は、忘れられることがないであろう――」
「忘れられるべきなのだ、ティリオン!――もし世界が恐怖の抑圧から解放されるならば、そのときには、今日この場で起こった全てのことは絶対に周知されるべきではないのだ」
その言葉に対してティリオンが厳粛にうなづいた後に、兜の奥の両眼をオレンジ色に光らせたボルヴァーは、その様子によって彼が3代目のリッチキングに就いたことを示しました。
「皆には…、リッチキングが滅亡したとだけ伝えるのだ――」
「――そして、ボルヴァー・フォードラゴンは、彼によって殺されたのだと…」
死霊の特有の声質となり、座っていた凍てつく玉座ごと氷の檻に覆われ始めた新たなリッチキングは、自分を見上げるティリオンに対して、最後にこう叫びました。
「さあ、この場所から今すぐ去るんだ!――そして…、二度とここには戻ってくるな」
リッチキングとなった自らを氷塊で封印した、聖騎士にふさわしい犠牲心を見せたボルヴァー・フォードラゴンは、これより死霊の王として、玉座より動くことなくスコージ軍を抑制し続けることになります。
このシーンは、「World of Warcraft」の人気が最盛期であった頃の「Wrath of the Lich King」におけるフィナーレだったために、大多数のプレイヤーが強く心に留めました。
「凍てつく玉座の騎士団」のレジェンド
<目次>
中立 | ダークフォールンとブラッドプリンス評議会 |
ケレセス公爵 | |
タルダラム公爵 | |
ヴァラナール公爵 | |
中立 | アーファス |
ドルイド | ハドロノックス |
ハンター | ピュートリサイド教授 |
メイジ | シンドラゴサ ―― マリゴスに寵愛された青竜と死竜の女王 |
パラディン | ボルヴァー・フォードラゴン ―― 不屈と犠牲の精神で身を捧げた黒変の聖騎士 |
ボルヴァー・ドラゴンフレイム | |
プリースト | ベネディクトゥス大司教 |
ローグ | リリアン・ヴォス |
シャーマン | ムウラビ |
ウォーロック | ブラッドクイーン・ラナセル |
ウォリアー | ドグサレガオ |
中立 | リッチキング ―― 氷牢より腐敗を司る死霊の総帥 |
アーサス・メネシル ―― 暗黒騎士の王へいざなわれた聖騎士の王子 | |
特別編 | エボンブレードの騎士団 |
デスロード・ナズグリム | |
トーラス・トロルベイン | |
審問官ホワイトメイン | |
ダリオン・モグレイン ―― 死をも厭わぬ大胆不敵の聖剣の担い手 |
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