Warcraftの世界におけるアーサス・メネシルは、人間種族の大帝国ローデロンにおける直系の王子であり、シルバーハンドの騎士団に属する勇敢なパラディンでした。
死霊使いの暗黒騎士リッチキングとしての活動が有名ですが、堕落する前のアーサス王子は猪突猛進ながらも真っ直ぐな熱血漢であり、祖国を守るために自己の鍛錬を怠らない、自国愛にあふれる青年でした。
Warcraftを語るうえで欠かせない人物の一人であり、その死後も大きな人気を博し続けているキャラクターです。
凶暴化したオーク軍がホード陣営としてアゼロス大陸へ攻め入っていた戦時中に、アーサス王子は幼少期をローデロンで過ごしました。
手酷く壊滅した南部の王国ストームウィンドの生き残りがローサー卿に率いられ、ローデロンで再起してアライアンス陣営を結成し、ホード陣営に命がけで反撃する――幼少期にそのような光景を日常的に見てきたからこそ、アーサス王子は自国の防衛に対する意識を高めていたのかも知れません。
将来に王国を統治する存在になることを幼いながらも自覚していたアーサス王子は、その頃からすでに、自らが自国の防衛力となり得るよう心身を鍛え始めていました。
同年代かつ身分も対等であるヴァリアン・リン――ストームウィンド王国の王子――とはすぐに仲が良くなり、彼と武術の組手を何度も繰り返しました。
鉄壁の守備で第2次大戦の勝利に大きく貢献したドワーフの戦士ムラディン・ブロンズビアード――マグニの弟でブランの兄――からは、剣技を学びました。
そして、ウーサー・ライトブリンガーからは王国騎士としての振る舞いを学び、彼に勧められるがままに聖騎士団のシルバーハンドに入団し、パラディンとなりました。
たくましく育ったアーサスは、いつしかローデロンにおけるパラディンの名士の一人となっていました。
アーサスが24歳のときに、ローデロン地方で疫病が大流行したため、彼はジェイナ・プラウドムーア――かつての恋仲――とともに村の視察を命じられました。
そこでアーサスたちは、疫病を意図的にばらまいていたと見られる狂気の魔法使いを発見し、討ち取りました。
その魔法使いは、上級魔導師集団キリン・トアの有力な一員であり、リッチキングが誇る強大な力に魅せられて悪魔の狂信者と化した、ケルスザードという人物でした。
ケルスザードは死ぬ前に、「疫病で生物が死滅することでこの地が『洗浄』される」「その死体から蘇ったアンデッドが世の中を支配することで理想郷が築かれる」などと一方的に主張し、「いまは悪魔のマルガニスが主導してローデロン地方に病気をばらまき、その病死者を操って悪魔の一員として迎えている」と明かしました。
そのおぞましい脅威の排除を急ぐことになったアーサスたちは、ともかくマルガニスが拠点にしているという、ローデロンの北方都市ストラトホルムへ向かいました。
雨が降りしきるストラトホルムの門前において、師のウーサー・ライトブリンガーとも合流したアーサスは、ここへ到着する最中に、今回の騒動について思いを巡らせていました。
これは、大量の病死者を引き起こす、単なる疫病の災厄ではない――
罪なきローデロンの民衆が病死を強いられ、アンデッドと化すことを強いられ、望まぬ悪魔への奉仕を強いられることになる、敵対勢力による侵略である――
自尊心が高く、自国の領土および領民の防衛を第一に掲げていたアーサス王子個人にとっては、非常に耐えがたい屈辱をもたらす事件でもありました。
アーサスは、すでにストラトホルム中で悪魔の病気がまん延していることを知らされると、烈火のごとく激怒しました。
いま病に冒されている民衆は、その後に無残なアンデッドと成り果てるばかりか、同じ国民を襲う敵と化してしまう――自分は民衆を愛しているからこそ、彼らをそのような悲惨な目に遭わせる訳にはいかない――そう荒ぶったアーサスは、病死者が続出する前にストラトホルム全体を焼き払うよう命じました。
まだ民衆が人間として生存している最中に焼き討ちするという、信じがたく惨たらしい(むごたらしい)その命令の実行を、同行していたウーサーとジェイナは責めるように猛反対しましたが、アーサスは聞き入れることなく王子の権限でもって命令を強行させ、ストラトホルムを住民ごと火の海に包みました。
その後にウーサーとジェイナが愛想をつかせてアーサスのもとから離れるまでのエピソードは、「ストラトホルムの悲劇」として、多くのWarcraftプレイヤーの記憶に残りました。
「Warcraft 3: The Frozen Throne」で有名となったシーンであり、「World of Warcraft」のストラトホルムにおいても再現された、アーサス王子がリッチキングへ堕ちるきっかけを作った事件です。
ストラトホルムでアーサスと対面したマルガニスは、最北の大陸ノースレンドで待つと言い残し、ワープしてアーサスの前から姿を消しました。
マルガニスに対する復讐のためにノースレンドへ赴いたアーサスはそこで、探検同盟から依頼されてノースレンドの調査をしていた、かつての剣技の師であるムラディン・ブロンズビアードと偶然に再会しました。
お互いの事情を説明し合う間に、アーサスは、ノースレンドに眠るという魔剣フロストモーンの存在をムラディンから聞きつけました。
凄まじい魔力を秘めていると噂されるフロストモーンに、アーサスは大きな関心を抱き、それはマルガニスの打倒の大きな戦力になるのではないかと考えました。
一方で、マルガニスとリッチキングの悪魔陣営は、屈強ながらも利己的だったアーサス王子のことを、悪魔の手先としての資質が大いにあると注視し始めていました。
魔剣フロストモーンのもとにアーサスが現れることをリッチキングが予言すると、その場所でアーサスをからめ捕るべく、マルガニスはフロストモーンのそばで待ち伏せしました。
予言どおりにフロストモーンの台座までアーサスとムラディンがたどり着くと、マルガニスはアーサスの前に現れて挑発し、アーサスがフロストモーンを手にするよう仕向けました。
実は、この魔剣フロストモーンは、リッチキングことネルズールの魂が込められている武具の一部だったのです。
リッチキングは、これを手にした者の精神を離れた場所からでも直に操れるので、アーサスを悪魔陣営側に引き入れる手段として、彼らはフロストモーンを活用することにしたのです。
台座に刻まれていた魔剣に対する忠告文を読んで、これは呪われた危険な剣であると気付いてアーサスを制止したムラディンでさえも、自らの意志を邪魔する存在として、アーサスは斬り捨ててしまいました。
師をも殺害する、手段を選ばないアーサスの資質は、いよいよ悪魔の近衛兵となるにふさわしいと評価したマルガニスは、今まさにフロストモーンを手にしてしまった彼の服従を見届けようとしました。
「その剣を通してリッチキングはお前に何と語っているかな?」と、余裕の表情を見せながら質問したマルガニスに対して、アーサスはこう答えました。
「目の前の悪魔に復讐を――と」
驚がくの表情を見せたマルガニスを、リッチキングの意のままとなったアーサスは、魔剣フロストモーンを振るって一瞬で斬り伏せました。
リッチキングの真の目的は、魔剣フロストモーンを通じて屈強なアーサスを従えるだけでなく、失われた自らの肉体として彼を取り込んで、氷塊の中から脱出することでした。
与えれた能力を行使していくうちに、強大な死霊使いとして自信をみなぎらせていたリッチキングは、恐れながら仕えていた憎き悪魔との訣別をすでに決断していて、その手始めとして悪魔のマルガニスに復讐を果たしたのです。
奇しくもマルガニスは、アーサス王子と、それを操るリッチキングの、両方の復讐対象だったのです。
こうしてリッチキングの手中に陥り、最初のデスナイトとなったアーサス王子は、ローデロン王国に帰還して歓迎を受けると、息子との再会を喜ぶテレナス国王の前でひざまずいた直後に、手にしていたフロストモーンで国王を殺害しました。
そのときアーサスは、国王の父が何者かに刺し殺されたというヴァリアン・リンの目撃談を思い出していたそうです。
「ゲームの歴史に残る衝撃的なムービーシーン」にもランクインした、印象深いこのエピソードは、アーサス王子が故郷に背いて裏切り、リッチキングに従い、アゼロスの破壊とアンデッドによる支配に着手した第一歩であることを意味しています。
ここからアーサスの凶行は勢いを増します。
アンデッドのスコージ軍を一斉に駆り立てて指揮し、ローデロンの国民を殺りくしてはアンデッドとして蘇らせ、スコージ軍を増強させました。
アーサスの配下となった新生デスナイトに対しては、忠誠を誓わせるべく、そしてパラディンであった過去を捨てさせるべく、そばにいた彼の実の母親を殺すよう命じました。
ケルスザードをアンデッドとして蘇らせるようリッチキングに命じられると、それに必要な秘宝の壺――現在はアーサスの父の遺骨が納められている――を所有するシルバーハンドの騎士団を襲い、アーサスの人生の先生でもあったウーサー・ライトブリンガーまでをも殺害しました。
ケルスザードの蘇生に必要な太陽の泉があるクエル=サラス地方へ侵攻すると、それを阻まんとするエルフのレンジャーのシルヴァナス・ウィンドランナーを殺害したばかりか、自身に歯向かった代償として彼女をわざわざ蘇生し、リッチキングへ仕えるアンデッド兵にして、彼女が親愛する同族を彼女自身が殺すように仕向けました。
ケルスザードを実際に太陽の泉で蘇生する直前には、対面したクエル=サラスの王アナステリアン・サンストライダー――ケルサス・サンストライダーの父――を、こともなげに斬り捨てて殺害しています。
悪魔の将軍アーキモンドのアゼロス召喚を悪魔から命じられると、それに必要なメディヴの魔導書を奪うべく魔法都市ダラランに赴き、それを阻止しに現れた大魔術師アントニダスを殺害しました。
蛮行著しいアーサスと、その主のリッチキングに、あるとき危機が訪れました。
悪魔に対する裏切りの姿勢を見せていて、手に負えないほどの力を備え始めたリッチキングを、リッチキングの産みの親である悪魔の将軍キルジェイデンが排除しようと動き始めたのです。
悪魔の道を選んで悪魔の力を貪欲に求めているイリダン・ストームレイジ――マルフュリオンの弟――に対し、キルジェイデンは、ノースレンドに移送したリッチキングの魂を破壊するよう命じました。
その危機をリッチキングから伝えられたアーサスは、様々な障害を乗り越え、アヌバラクたちネルビアン種族の助けも借りて、どうにかリッチキングがいる「凍てつく玉座」へ通じる扉を開きました。
そこで対峙することになったアーサスとイリダン――
「アゼロスから去り、二度と戻るな」とアーサスが言い放ったことを皮切りとして、堕落した英雄の二人が一騎打ちで争いました。
数分に渡る斬り合いの末に、とうとうイリダンの防御を打ち砕いたアーサスは、魔剣フロストモーンでイリダンの胸に重症を負わせ、リッチキングの争奪戦に勝利しました。
リッチキングへ歩み寄るこの過程が、自らの運命を大きく動かしていると自覚していたアーサス・メネシルは、その途中で彼を呼び止めようとしているムラディン、ウーサー、そしてジェイナたちの声を聞いていました。
王子として過ごした時代の記憶を捨てるように、それらの声を振り払ったアーサスは、ついにリッチキングのもとへたどり着きました。
「この牢から我を解放せよ――」
アーサスは、他の誰でもない、リッチキングの声に従いました。
フロストモーンによるアーサスの一撃でリッチキングを封じていた氷塊が砕け散ると、絶叫のような音が周囲の寒空に響き渡り、リッチキングの能力の源でもある「支配の兜」がアーサスの足元に転がり落ちました。
アーサスはそれを厳か(おごそか)にかぶり、リッチキングと同化し、スコージ軍と暗黒騎士団の長としての道を歩むことを選びました。
「これで、我々は一つだ」――アーサスと同時にそうつぶやいたリッチキングは、念願であった屈強な肉体を得て、悪魔の拘束からの脱却を果たしました。
最強のネクロマンサーとしての能力を授かったアーサスは、やがては同化元である主人のネルズールの魂を壊滅させ、単独のリッチキングとしてアゼロスの大きな脅威となり続けました。
マリゴスの側近であったブルー・ドラゴンのシンドラゴサの死体を、アンデッド・ドラゴンとして蘇らせ、最強クラスのスコージ軍の戦力として入手しました。
リッチキングならではの能力も存分に活用し、病原菌を混ぜた穀物をアゼロスのいたる所にばら撒き、その汚染物を食して血まみれのグールとなった民間人を、スコージ軍の兵力としました。
そしてリッチキングは大胆にも、アゼロスの2大首都であるオーグリマーとストームウィンドへ、それぞれスコージの大軍を送って大きな攻城戦を仕掛けました。
これはプレイヤーたちの協力もあってすぐに鎮められ、ホードとアライアンスの両陣営によるリッチキングへの大反撃を誘発するきっかけとなったのですが、それもリッチキングの予想通りの展開でした。
アゼロス中の英雄を呼び寄せ、彼らをまとめて汚染させて配下とし、かつての仲間に歯向かわせる――アーサス自身がした経験をそのまま同じように体験させようとする屈折した欲求のために、自身の近くまでアゼロスの大軍が集結するよう、わざわざリッチキングは挑発していたのでした。
普段いがみ合っているホード陣営とアライアンス陣営も、このときばかりは休戦してノースレンドに戦力を集め、アゼロスの崩壊を阻むために、共にリッチキングとスコージ軍の打倒を掲げました。
ここでは戦死者が敵と化す特殊な戦争となるゆえ、半端な兵が含まれた大軍は相手を利する恐れがあるとして、精鋭だけを選定するアージェント・トーナメント――ハースストーンの拡張セット「グランドトーナメント」の舞台――がティリオン・フォードリングの主導のもとで開催されました。
そして、リッチキングの根城であるアイスクラウン城砦に突入したティリオンとプレイヤーたち精鋭部隊は、最深部の凍てつく玉座において、リッチキングの野望に終止符を打つことに成功しました。
ティリオンに魔剣フロストモーンごと打ち砕れたリッチキングは、呪いが解かれてアーサスとして死ぬ間際を迎えていて、フロストモーンに吸入されていた魂の一つであるテレナス王――アーサスの父親――の腕に抱かれていました。
「父さん?!――もう…、終わったのかい?」
「ようやくだ、我が息子よ――永遠に支配を続ける王など、存在しないのだ」
そう言葉を交わし、アーサスの死を見届けたテレナス王の魂は、愛する息子の両眼を閉じて、そっと地面に遺体を横たわらせました。
テレナス王は続けて、リッチキングの不在はスコージ軍の大暴走につながるとティリオンに警告し、それを統治する役として新たなリッチキングが必要であると訴えました。
その役を引き受けようとしたティリオンに対し、リッチキングから激しい拷問を受けて全身不随のアンデッドとなっていた元パラディンのボルヴァー・フォードラゴンが、「君には他の役割があるはずだ」と説得してリッチキングの役を引き受け、この凍てつく玉座から半永久的にスコージ軍をコントロールする決意を示しました。
旧友のティリオンから「支配の兜」をかぶせられたボルヴァーは、またたく間に氷塊に包まれ、三代目のリッチキングとなりました。
「World of Warcraft」の人気が最盛期であった頃の「Wrath of the Lich King」におけるフィナーレだったために、大多数のWarcraftプレイヤーが、これらのシーンを強く心に留めました。
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