オークのホード軍がアゼロスへ侵略する、ずっと以前の時代のことです。
アゼロスの惑星から遠く離れた宇宙に存在する、オーク種族の誕生の地であるドラエナ(Draenor)は、アゼロスよりも野生の生命力が格段に強く、自然味があふれる惑星でした。
アゼロスにおいては、ラグナロスやアラキアなどの四大精霊たちが旧神に支配されたことによって、自然界のバランスが不均衡であり続けたのに対し――
ドラエナにおいては、自然の精霊たちが健常な状態であったために、野生が繁殖するに最適な自然界のバランスが保たれ続けていました。
大変強い成長力を有していたドラエナの動植物は、それぞれ生物界の頂点を目指すべく、どう猛に競い合いました。
その中でもドラエナで繁殖した植物――特に食肉植物――の発展は目覚ましく、やがてはスポーアマウンズ(Sporemounds)と呼ばれる超巨大な食肉植物までもが誕生していました。
スポーアマウンズは大量の水を地中で探し求める過程で、ドラエナの自然界の精霊と接触したことによって知性と共同性を得て、知的生命体に進化し、とうとうドラエナ大陸を支配する存在に至ったのです。
ドラエナでは、植物が生物界の頂点に君臨するという、何とも珍しい生態系が形成されました。
スポーアマウンズが組織する植物の社会は、いつしかエヴァーグロウス(Evergrowth)と呼称されました。
ドラエナでは敵なしの状態であったエヴァーグロウスは、誰に邪魔されることもなく、無秩序かつ独占的にドラエナの惑星の資源を吸い付くそうとしていました。
その様子を目撃したタイタン――あらゆる惑星の生命と秩序を保とうとする種族――の一人であるアッグラマー(Aggramar)は、このままエヴァーグロウスという組織を放置すれば、ドラエナ大陸の全土が荒廃すると察知し、ドラエナへの介入を決断しました。
アッグラマーの力だけでエヴァーグロウス全体を一掃することもできたのですが、それはドラエナのほとんどの植物を根絶する行為にも等しく、やはりドラエナを荒廃に導くことになるため、彼はエヴァーグロウスの根幹を成すスポーアマウンズだけを標的とすることにしました。
アッグラマーは、ドラエナの快活な四大精霊の力を利用することを決めて、それらを巨大な山に呼び込んで集約し、そこからグロンド(Grond)という名の強大な大地のエレメンタルの巨人を創造しました。
ドラエナの自然界から誕生した巨人ならば、スポーアマウンズとドラエナ大陸との結び付きを分離させながら戦えるので、ドラエナの大地や植物を保護しつつスポーアマウンズの息の根を止めることができるのです。
――巨人グロンドとスポーアマウンズたちの死闘は、熾烈(しれつ)を極めました。
グロンドは争いの途中で絶命したものの、最終的にはスポーアマウンズの全滅も果たされたことによって、エヴァーグロウスによる一方的なドラエナの支配は終焉(しゅうえん)を迎えたのです。
スポーアマウンズがドラエナの大地から吸引していた多量の生命のエネルギーは、スポーアマウンズの崩壊によって胞子となって広く散布(さんぷ)され、ドラエナ全土に住む様々な種族の発達に影響を及ぼしました。
その最たる例がグロンドの破片から誕生したグロンドの子孫たちであり、胞子を体内に取り込んだ彼らは生身の体を持つ小型の生物種に退化し、それから長い年月を経ると一部がオーガ種族に変質し、さらにはその一部がドラエナを代表する種族のオークとなりました。
エヴァーグロウスと相討ちになって崩壊したグロンドの体は、その死体が超硬度のブラックロック鉱石となって、ドラエナ大陸の北部に散りばめられました。
そして、小島ほどもあるスポーアマウンズの巨大な死体は、ドラエナの最北東部の海面に沈み、ファラロン(Farahlon)と呼ばれるようになった小大陸を形成しました。
このファラロン島の成れの果てが、現在のネザーストームの姿なのです――