非道で許されざるイリダンの監視者となったマイエヴとウォッチャーズは、約1万年にわたって休むことなく献身的に彼を毎日監視し続けました。
後に第三次大戦と呼ばれる悪魔再襲来の直前の頃でした。
マイエヴは所用のために、一時的にイリダンのもとを離れて地上で活動していました。
そのマイエヴの不在時に、思いがけないエルフ族の要人が、イリダンとウォッチャーズがいる地下牢に訪れたのです――
――プリーステスを率いるティランダ・ウィスパーウィンドその人です。
この頃、地上では各地に強大な悪魔が多数出現していました。
マイエヴの一時的な不在の理由も、対悪魔の戦闘の加勢であったと容易に想像できます。
劣勢であったエルフ軍を率いるティランダは、起死回生の手段として、悪魔に対抗し得る旧友のイリダンをエルフ軍の戦力として求めたのでした。
イリダンを野に放つことは危険極まりないことだと訴えるウォッチャーズは、たとえプリーステスの最高指導者の命令であるとしても、頑な(かたくな)に彼の解放を拒みました。
しかしながら、ティランダは一刻を争うとして自分の護衛隊を強行突入させ、衝突したウォッチャーズの中から戦死者が発生することも構わず、イリダンの即時解放を成し遂げました。
地上での活動を遂行して地下牢に戻ったマイエヴは、破壊された檻、無残に捨て置かれたウォッチャーズの死体、そして何よりイリダンの不在を目撃して、がく然としたのです。
どの悪魔よりも強大で凶悪な存在を封じるべく、自らに課せられた任務を完遂するべく、マイエヴはイリダンの再捕獲に向けて、すぐさま動きました。
捕獲対象であるイリダンの方は、失恋相手であったティランダに対する想いが捨てきれず、彼女の要望に応えて悪魔の軍勢を一蹴していました。
それを達成し、自由の身となったイリダンのもとに向かって、彼の監視者であるマイエヴが猛追します。
森林を駆け抜け、海を渡り、立ちはだかるナーガの軍勢をなぎ倒して、マイエヴとウォッチャーズはどこまでもイリダンを追跡しました。
さすがに厄介に感じたイリダンは、巨大墓地の内部までマイエヴの軍勢を誘い入れ、自分がテレポートして抜け出る直前に墓地の建物全体を崩落させました。
マイエヴはかろうじてこの罠から脱出したのですが、付き従っていた彼女の配下のほとんどが犠牲となり、マイエヴも孤軍奮闘して周囲のナーガたちと応戦することを強いられました。
マイエヴは、ナーガどもを引きつけている間に、わずかに残った味方を本拠地へ伝令に走らせ、援軍の到着を待ちました。
果たしてマルフュリオンとティランダが駆けつけ、彼女はかろうじて救出されました。
マイエヴは帰路の途中で二人に感謝の意を表しつつも、イリダン脱出の真相をすでに伝え聞いており、もはや内心では二人を敵視するようになっていたのです。
そもそもイリダンの処刑を却下し、1万年以上も彼の番人になることを命じておきながら、その労力と功績をないがしろにする独断解放を強行し、何より苦楽を共にし続けたウォッチャーズの仲間たちを皆殺しにした――この二人に対する復讐心が、マイエヴの中で満たされていました。