大学時代に「Diablo」というCD-ROMを借りてからだった。
私のゲーム観が根本的に変わり、ブリザード信者となり始めたのは。
RPGの育成が心底楽しいと感じたあの衝撃の大きさは、死ぬまで忘れることがないのだろう。
結局拾えなかった超級品「Obsidian Ring of the Zodiac」を求めて72時間連続でプレイし、数万円もの接続料の請求に頭を抱えたりもした。
ハクスラARPG(ハック&スラッシュ系アクションRPG)というジャンルを確立させたディアブロシリーズは、あれから30年経過した現在もそのブランド色を失っていない。



先日の30周年アナウンスでまず驚かされたのが「Diablo 2」の新拡張セットだ。
ウォーロックが追加されるというのだ。
新クラスが追加されるのは実に24年半ぶり。
Diablo 2のリメイク版の成功、およびファンの根強い支持が招いた快挙と言える。
2001年末に全7クラスをレベル95まで育てた経験がある私も、その挑戦は受けねばならない。
久々にプレイしてみると、さらに驚く。
保管庫でルーンがスタック可能となっていたり、公式のルート(収集)フィルターが追加されているなど、ゲームバランスに影響を与えない範囲のQoLが向上している。
すでに不自由に慣れきった懐古・古典ファンよりも、現代の新規プレイヤーに対する訴求力が高まっているようにも感じた。



ディアブロシリーズの最大の変革点は、2012年の「Diablo 3」のリリースだ。
分断点とも言ってよい。
ハクスラとしてのディアブロは、D3から性質が一変した。
D1とD2の開発によって伝説となった職人集団Blizzard Northが、2005年に解体された。
負債を抱えて「質より売上」に走る、親会社Vivendiと衝突したのだ。
この組織の地殻変動こそ、ディアブロシリーズが激変した最大の要因だったはずだ。
D1D2と、D3D4では、ハクスラの着地点がまるで異なる。
嗜好するビルドの理想を求め、何ヶ月も何年も長期に渡って修行僧のように最終形態を目指すプレイスタイルがD1とD2だ。
一方のD3とD4では、約3ヶ月の周期でリセットを繰り返すシーズン制度が設けられ、その各シーズンごとに一から最終形態を目指していく。
強力なアイテムがどんどんドロップするし、D3では簡単なタスクの達成によって超強力なセットアイテムがフルでそろう。
育成のスピードは早く、シーズンごとのサイクル(使い捨て)が基本だ。



そうしたD3からの路線変更が今でも議論の的にもなるが、実際にはD3のカジュアル路線もまた成功を収めている。
少しポップに変化したアートスタイルや、簡略化されたスキルシステムは、いずれもヘビーゲーマー層を遠ざける一方で、ライトゲーマー層を大いに取り込んだ。
いまだにやり玉に上がるD3のリリース直後の失敗と大不評も、主要因は「サーバーダウン祭り」「リアルマネー売買」「最高難度の調整不足」であり、今ではどれも存在しない。
そればかりか、14年後の今となっては低いPCスペック要件、ならびにコンソール機での遊びやすさが、プレイ人口の定着を底堅く下支えしている。
そして2023年に満を持してリリースされた最新作「Diablo 4」は、D3の正統な進化形である。
ところどころでD2層を取り込もうとした意欲はうかがえるが、シーズンサイクルを基本とした速いペースのプレイスタイルに変わりはない。
複雑になりすぎないスキルシステムは相変わらずカジュアル層に好評だ。
美麗なグラフィックと引き込まれるようなストーリー展開は、ディアブロシリーズの経験の有無を問わずに、全プレイヤーをそのRPGへ没頭させることに成功した。



D1D2と、D3D4では、プレイヤー層が明確に異なる。
では、進化の路線が途絶えたD1D2のプレイヤー層はどこへ向かったのか。
一方はもちろん、前述した新拡張セットも用意されたD2のリメイク版「Diablo 2 Resurrected」だ。
もう一方で押さえておくべきタイトルが「Path of Exile」シリーズだ。
D2ファンの多くは、D2RよりもこちらのPoEに流れていると目されている。
PoEの話題は、昨今のディアブロ系ハクスラのジャンルにおいて無視できない。
基本無料という課金スタイルも相まって、プレイヤーの規模でディアブロシリーズと競り合える唯一の存在だ。
D2の進化のベクトルを、D3D4の方向の真逆に向けて、先鋭化させた作品だ。
スキルツリーは一見すると複雑怪奇であり、それが故にプレイ外の時間でも延々とビルドの構築について試行錯誤できる。
ドロップ品がプレイ中のクラスに限定されないために、プレイヤー間のトレードがいつまでも活発だったりする。
それもそのはず――PoE運営の主要な創始者たちは、全員がガチのD2ファンだったのだ。
彼らは行き過ぎたカジュアル傾向に反発し、硬派で複雑な、良い意味での不自由がある、究極のD2の創作を目標としていた。
果たしてPoEは、分断されて行き場を失ったかのように感じたD1D2層が寄り添う共同体のような場として繁栄した。



この話題においては「Darkhaven」も補足しておきたい。
PoEがD1D2ファンによる作品である一方で、「Darkhaven」はD1D2の開発者そのものが練り上げている。
旧Blizzard Northに所属してD1D2の屋台骨を支えた3名が共同創設者となっている。
したがってD1D2のファン層は否応なしに注目することになる。
鋭意制作中の同作品は、以下の特徴で他のハクスラARPGと差別化しようとしている。
「育成はちまちまと積み重ねるのではなく、ビルドをも変えるぶっ壊れ級のアイテムの取得によって大胆に進む」
「地形の破壊や建造物の構築がMO/MMOの世界でも残り続ける、サンドボックス要素の導入」
「単なるパーツの組み合わせではない生態系のつながりを感じさせるランダム生成エリアにおいて、ジャンプ、水泳、登山のアクションを駆使できる」
――私にはどのような方向性を目指しているのかがよくわからない。
ともあれ「D1D2の開発者」を最大の売りとしているならば、どうしたって古典的な方向性のD1D2の類似作が期待されるはずだ。
そうでなければ秀作に仕上がっても「期待外れ」と一方的に断じられる恐れは十分にある。
提供が始まったデモ版をプレイしてみても、現在のところはスキルシステムも簡素であり、UIの様式も含めて「見た目がライトなD4」という印象だった。
果たしてD1D2のファン層をD2RやPoEから奪取できるのか、あるいはターゲット層が別にあるのか。
今後の展開にも注目している。



その他にも「Titan Quest」「Torchlight」「Grim Dawn」「Last Epoch」などが、ディアブロシリーズを模倣するゲームの中では一定の支持を得ている。
ディアブロが確立したハクスラARPGというジャンルでは、30年の間に多くの競合タイトルがひしめき合うようになった。
それでも元祖ディアブロは、激戦区と化した同ジャンルのフィールドにおいても、なお絶対的な存在感を発揮し続けている。
その最たる証明が、最新作「Diablo 4」の記録的な売上だろう。
5日間で収益6億6,600万ドルを叩き出し、ブリザード社の金字塔であった「World of Warcraft: Shadowlands」のローンチ売上最速記録をあっさり更新した。
1年で収益10億ドルを上げ、同社が誇る「オーバーウォッチ」が打ち立てた史上最速の10億ドル到達記録と肩を並べた。
そもそも企業規模に雲泥の差があるPoE他、競合ジャンル内の各作品の売上は、その足元にも及んでいない(10%未満)。
ハクスラのジャンルにあった商業的限界を軽々と突破し、世界中のARPGカテゴリー全体の中でも特筆すべきビジネス面での成功を収めた。
これは紛れもない事実だ。
ゲームの品質はもちろんのこと、「巨額の予算を投じた広告とコラボ」「多機種マルチプラットフォーム展開」「先行アクセス権を餌にした高額エディション」「コスメ等の定期的な有料コンテンツ」が、初期の爆発的な売上および継続的な売上に寄与した。
そして、D3の簡素化、低難度化、シーズンサイクルを引き継ぐ「間口を広げたカジュアル層の取り込み」が、定期的なプレイヤー獲得の基盤となっている。
過度な収益化構造に対して不快感を示す声が散見されるものの、圧倒的な成果によってこのゲームジャンルを力強く牽引してきた功績は覆せない。
30周年を迎えたディアブロは、相変わらず強固なブランド力を築き上げた象徴として君臨している。



30年も経てば、さすがにプレイヤーの嗜好も多様化する。
引き続きD2Rのような硬派な路線を望む者もいれば、D3D4のような手軽で爽快なサイクルを大いに楽しむ者もいる。
ディアブロシリーズの感性からは生まれることがない、PoEなど派生タイトルの仕様の方が刺さるプレイヤーも多数いるだろう。
プレイスタイルの違いによって、コミュニティが分断されたように映るかもしれない。
だが、それは「ディアブロが創設したハクスラARPG」という土壌が豊かに成長し、多様なニーズへ応えられるようになった証しに他ならない。
そうした変遷や拡張が繰り返される世界で、ディアブロはまた40周年、50周年と節目を迎えるだろう。
その際でもやはり、ディアブロは元祖として、このジャンルにおいて最もリスペクトを集めるブランドであり続けてほしい。
私ももちろん、いつまでもディアブロに敬意を払い続けたいと望んでいる。
30年前に「RPGの育成が心底楽しい」と衝撃的に感じさせ、ゲーム観を根本的に変えてくれた、その感謝の意も含めて。

