失踪したイリダンの追跡がすぐさま再開され、監視役を担当していたマイエヴはもちろんのこと、マルフュリオンとティランダもこのミッションに参加しました。
マイエヴはイリダンの再捕獲を何としてでも成し遂げたかったものの、本来であれば非常に心強い味方であるはずの二人との行動を、快くは思っていませんでした。
そればかりか、二人への復讐も同時に果たせないものかと、私刑を執行する機をうかがっていたのです。
マイエヴがティランダと追跡を進めていたときのことです。
彼女たちは川辺でアンデッド軍団の激しい奇襲を受け、崩落した橋の上にいたティランダが川に流されてしまったのです。
ティランダの救出はイリダンの追跡の中断につながってしまうこと――
マルフュリオンのイリダンに対する怒りを呼び起こすこと――
そしてティランダをこのまま見殺しにすること――
以上の3点を理由にして、マイエヴはマルフュリオンに「ティランダは殺された」と嘘の報告をしました。
愛する妻の死の知らせを受けたマルフュリオンは激情し、マイエヴが望んでいたとおりに、イリダンの追跡の手を強める命令が全軍に通達されました。
そして、とうとうマルフュリオンは、ナイト・エルフの全軍を集結させてイリダンを追い詰めるまでに至ったのです。
ティランダの死を責めるマルフュリオンに対し、イリダンは「今でも愛するティランダの要望に応えて活動しただけであり、彼女を害することなど決してしない」と弁明しました。
その直後に、彼のそばにいた一人のブラッド・エルフが急展開を呼び起こします。
そのブラッド・エルフとは、クエル=サラスの王子であるケルサス・サンストライダー――
この物語においては脇役ですが、彼はこの追跡に協力していて、ティランダが川に流されたことを目撃していたのです。
「まだティランダは死んだ訳ではないはずだ」と、ケルサスが一部始終を打ち明けました。
そして最終的には、同行していたマイエヴが嘘の報告をしていたことが、イリダンの討伐が果たされる直前にして発覚してしまったのです。
烈火のごとく激しいマルフュリオンの怒りの矛先はマイエヴに向けられ、「真の『反逆者』はお前だ!」と一喝した彼は、巨大な根でマイエヴをしばりつけて自由を奪い、全軍に対してティランダの救出を命じました。
長い時間をかけて、一人取り残されたマイエヴはようやく根の束縛を解き、自分一人でもイリダンの討伐を果たそうと、追跡を再開しました。
無防備にも誰かと話しているイリダンの声を聞きつけ、物陰からイリダンを発見したマイエヴが目撃したのは――
イリダンと、マルフュリオンと、救出されたティランダが三人だけで集い、穏やかに別れを告げているという衝撃的な光景でした。
実はイリダンこそがティランダの救出を果たしていたために、その多大な恩へ報いるために、マルフュリオンとティランダは他のエルフに気付かれないようイリダンの逃亡を見逃すことにしたのです。
エルフの統率者が、勝手にイリダンの捕獲を取りやめてしまったら――では、悪魔に魂を売ったエルフの反逆者の大罪が不問にされるのか、自分に1万年も課した反逆者の監視は一体何だったのか、そして無残に散っていった仲間たちは何のために犠牲になったのか――
言い表せないほどに狂おしく、苦しく、悲しく、怒りに満ちた感情を全身に駆けめぐらせたマイエヴは、この瞬間よりナイト・エルフ軍と訣別したのです。
イリダンが二人と別れた後にポータルを開いてテレポートする様子を見届けたマイエヴは、迷うことなく自分もポータル内に入り、イリダンのゆくえを追いました。
戻って来れるかどうかも分からない侵入先の未知の大陸で、イリダンの討伐を遂行した後で、マルフュリオンにも復讐することを夢見て――